2008年11月18日火曜日

毒にも薬にもならない話




日頃「毒にも薬にもならない。」というフレーズを耳にする。人畜無害で停滞した状況や、魂を揺さぶる感動や情念を呼び覚ましてくれる要素のないものと私は解釈しているが、時には人生のスパイスとして、毒も薬も必要なものである。




昨今話題の中国の農薬や添加物など、食品衛生上使用禁止のものが公然と使われ問題になっている。メタミドホス、ジクロルボス、メラニン等々。さてその中国の揚子江では、産卵期にメフグが海から川へ溯上し、その際に捕獲する。そのふくれた様が豚の様に似ていることから、「河豚」と中国語で書く。このフグは中国で唯一食用にされるフグでもある。古来中国では 「不吃河豚不知魚味吃了河豚百無味」・・・という言葉がある。河豚を食べずして魚の味を知ることはできない。河豚の味は他にない、という意味である。写真のように日本のトラフグに似ていて体長は20~40cmほどで美味いらしい。




食品中毒のうちで、ふぐ中毒がもっとも死亡率が高く、80%にも達すると報告されている。フグ毒は一種のシテガラ毒であり、神経毒のテトラドトキシンと言われるものを指している。これは猛毒であり、青酸カリの1000倍の致死能力があって、部位によって毒の強弱があるものの、幸いフグの身と白子には毒が無いので、我々釣り師はこれを頂く。
また雌の卵巣には猛毒があり、オスの白子は無毒と言うのもオスの悲しい性を象徴しているようだ。またフグは魚類で唯一人間並みに瞼を持っている。寝るときはまぶたを閉じるのだろうか?




また釣魚の対象のショウサイフグなどは身に弱毒があるので、食べ過ぎるとヤバイことになる。フグ釣りを始めたころ、少し食べ過ぎて、しびれは無かったが、血圧が急に下がって気分が悪くなったことがあった。それ以来食べる量は控えている。このフグは別名ナゴヤフグと言って、(尾張名古屋)で終わりと呼ばれ。キタマクラと称するフグは。食べたら北枕になるところから、それぞれ有難くない名前を頂戴している。過去に私が釣ったフグに味のランクを付けると、
1.トラフグ2.アカメフグ 3.マフグ4.ショウサイフグとくる。
 高浜虚子の句に次のようなものがある。  ”河豚くうて 尚生きてゐる 汝かな” 
 どっこいオイラは生きている。同時に素人の慢心は命取りとの天の声も聞こえてくる。



さてもう一つ毒のあるものと言えば、私にとって毒のある音楽はJAZZである。昔サラリーマン時代、会社のある新橋から10分くらいの所の銀座8丁目にあったジャズスポットJUNKは昼夜足繁く通った店で、今はすでに無い。昼間は喫茶店で夜はライブをやっていて、この店は中国人が経営していて、当時銀座にしては安い店だった。この店はコンボジャズからビッグバンドまで当代の名プレイヤーたちが綺羅星のごとく演奏をしていた。ナベサダ、日野皓正、日野元彦、八城一夫、世良譲、北村英治、またビッグバンドでは原信夫とシャープアンドフラッツ、など。又客の1人に今は亡き俳優の藤岡琢也が入り浸っていた。ある時にはピアノのアールハインズ(ジャズピアノの父と言われた)も来たり、ある時はウイントンケリーが来る予定だったところ、彼の訃報が飛び込み実現しなかったことなど。時に演奏者が客の参加を求め、非常にコンパクトな打楽器を配り、リズムをとって演奏に参加した楽しい思い出がある。
ジャズは、リズムと即興演奏(インプロビゼーション)が生命だが、生きる喜び、内面深く静かに燃える情熱や、魂の叫びみたいなものが、理屈抜きで心の琴線に触れる点で私のお気に入りの音楽である。特にビルエバンスのピアノが好きだ。


最後に忘れてはならない毒が酒である。これは飲み方次第で上質の薬にもなる。かつて作家の開高健がいい酒は水に戻ると言っていたが、言い得て妙だ。学生時代に通った渋谷の飲んべい横丁の仲間たちは、今は故郷に戻って女房子供に手を焼いているのだろうか?これじゃあまるでかまやつひろしの歌じゃないか。(笑)
酒は飲み方でその人の人間性が現れるものだ。いい酒、悪い酒、みんな飲み手次第で変わっていく。ある意味で酒が人間の毒を出してくれる。どうせ飲むなら楽しくおおらかに飲みたいものである。

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