2015年2月8日日曜日

負の連鎖が止まらない



テロリスト2人組の映像
最近起こったフランスのイスラム過激派2人組による風刺専門週間紙「シャルリー・エブド」襲撃事件は世界を震撼させた。この週刊誌は(2013年9月 20日の当ブログ)でも紹介したが 、過激な漫画風刺で知られる。その編集長を含むスタッフ11名が射殺された。発行部数4万部足らずの週刊誌であるがご当地では知名度が高い。ドイツの次にアラブ系の移民が多いフランスでは、階層社会の中ではじき出されたイスラム圏出身者たちには日々鬱憤が溜っている。その数450万人が不発弾を抱えているようなものだ。

さて問題のイスラム原理主義だが、イスラム教では偶像崇拝が禁じられており、預言者ムハンマドの顔を書くこと自体がタブーだが、イスラム教の風刺をエスカレートさせてしまったのがことの発端だ。11名の中には福島を揶揄した漫画家ジャン・カビュもいたそうだ。福島の件では日本政府が抗議したが「フランスでは悲劇をユーモアによって扱うことができるが、日本ではそうではないようだ」と突っぱねた経緯がある。
そこにはフランス人特有の上から目線の鼻持ちならない人種差別意識がある。被害者がユーモアで凌ぐのは魂のカタルシスにはなるが,当事者でない傍観者が、それをやっては被災者の魂の陵辱になる。報道の自由も結構だが、自由の裏には同等の責任というものがあるはずだが、この週刊誌はそれぞれの国家及びそこに帰属する人民の誇りを軽く見すぎた末に、調子に乗りすぎた結果が今回の事件となった。テロは21世紀の脅威であることには違いないが、その根底には抜き差しならない様々な格差が横たわっている。



問題のイスラム国であるが、世界80カ国から外国人義勇兵が15000人、イスラム国に参加している。兵力総数3万数千人が、シリアを中心に領土拡張を狙って、失われたイスラム国家再建をめざしている。単なるテロ集団ではなく、資金的な裏付けが20億ドルと推定されていて、世界の脅威となっている。現在日本ではイスラム圏出身者は10万人いるという。今後政府は激減する労働人口の穴埋めに、移民政策を撮る方向に傾いているが、米軍が駐留している日本が、イスラムの標的になる日が来ないとは言えない。中東を訪問中の安倍首相が、二億ドルの難民援助を表明したのを逆手に取り、拘束中の日本人2名に対して同等の身代金を要求した。その後日本人1人を殺害して、ヨルダンに拘束中のイスラム国のテロリストとの人質交換条件に変えてきて、すでに殺されていたヨルダン人パイロットと日本人捕虜2名が殺害されたニュースは周知のとおりである。



イスラム国のテロリストの映像を見たがナイフを人質に振りかざしているのは、英国人らしい。イスラム教は、キリスト教とならんで超越神として一元論の同一神で、同根の神である。その源流であるユダヤ教は救世主不在のまま超越神を崇め、救世主キリストとして位置付けるキリスト教、方やムハマドが救世主として位置付けられているイスラム教がある。いずれにせよ狂信的な一元論者は、イスラム教の名を語るカルトの構成分子である。そこに集積する世界中の不満分子が、来世のパラダイスを夢見て手厚い待遇の甘い勧誘のもとに行動を共にするのである。

このイスラム国の中核を形成しているのが 、スンニ派反米イラクのフセイン政権の残党である。そしてアメリカによって政権を奪われた連中は反米の先鋭として、豊富な資金力を背景に内戦中のシリアの空白地帯に入り込み勢力を増強してきた。さらにイラクの多数派のマリキ現政権に対し巻き返しを図るべく、古巣イラクに勢力を伸ばして行った。
そして2014年にイスラム国(ISIS)として名乗り出たが、公式にはどの国も承認していない。そのため残忍なテロ行為を繰り返し国際社会にアピールしている。2月に入ってもう一人の日本人ジャーナリスト後藤健二氏 の殺害が報じられ、いよいよ世界を敵に回した格好になった。世界がイスラム国消滅に動き出したので、イスラム国が消滅する日が来るのはそう遠くはないだろう。怨念は怨念を呼び再度歴史は繰り返す。要はアメリカによってゴチャゴチャにされたイラクの なかで、多数派の現政権と少数派の前政権の政権争奪合戦が裏に潜んでいて。その火種はブッシュ政権時代のアメリカということである。


2015年2月7日土曜日

アートな話 「生の根源」



上の絵はゴーギャンの 「我々は何処からきたのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか」である。自己の存在から人類の存在の不思議へと思いを馳せたこの放浪の画家は、異国の楽園タヒチで、長年患った梅毒でこの世を去った。フランスでの娼婦との放蕩生活が祟ったのだろう。その病は共同生活をしていた狂気のゴッホも持っていた。ニーチェを始めボードレール、モーツアルト、ベートーベンなど史上の思想家や芸術家の多くが梅毒にやられている。この病、最後は脳に異常をきたすことで広く知られている。わが国でも16世紀には流行が見られ、江戸時代にはかなり多くの人々に感染した病であり、治療法も見つからないまま、五宝丹などと言った煎じ薬で対処してたようである。江戸の町人たちは病を普通のこととして受け入れていて、一説では江戸の民衆の半分はこれにやられていて、中には粋な病と吹聴する輩も居たようだ。もともとコロンブスがアメリカ大陸からヨーロッパに持ち込み、一気に広がったものであるが、日本では関西から流行りだし、江戸に渡ってくると吉原から一気に広がった。

この孤高の画家ゴーギャンは、株式仲買人(ブローカー)の実業の世界に生き、日曜画家として暮らしていたのだが、やがて日常生活に幻滅した彼は、折からの金融不況のため株式仲買人をやめて女房子どもと別れ、現代社会とは対極にある辺境の島タヒチに画家を目指して旅だった。
フランスでのゴッホとの喧嘩別れの末に、異郷の地タヒチに何を求めて行ったのだろうか。我々が彼の絵を見て感じ取るのは、土着性の強い人々と自然 を鮮烈な色彩で表現した彼の芸術性がタヒチで開花したことであろう。絵のタイトルは作家の創作意図を表した情緒言語であるため、非常に長いタイトルがつけられていて、哲学的な意味が込められている。未開の自然の中で思索を続けた果てに、生と死を見つめた画家の人生がそこにあった。初期のゴーギャンの作品は後期印象派の影響を強く受けたが、彼は次第に印象派を脱却し、単純で強烈な色彩配置やフラットで装飾的な構成を取り入れるようになった。そして島での生活の果てに病魔に苛まれた晩年の代表作がこの絵である。 絵の意味するところは、人間の一生だと言われている。
画面右側の子どもと、寄り添う3人の女達は「人生のはじまり」を、中央の人物たちは「青年期」をそれぞれ意味し、左側の人物たちは「死を迎えることに甘んじ、諦めている老女」であるという。解説を待たずしても我々はこの絵から直感的に人間の一生に思いを馳せるのである。

◎先端技術は芸術に近づく
衝突装置を分離するはやぶさ2のイメージ=JAXA提供

さて昨年打ち上げられた宇宙探索衛星「はやぶさ 2号」のミッションは、地球と火星の間を通る小惑星(1999JU3)から物質を持ち帰ることである。その収集した物質の中に有機物や水が含まれていれば地球誕生の謎が解き明かせることになるのだが、一般的に大きな惑星は地球と同じように進化が40億年の間に進んでしまっているが、その間進化が止まっている小惑星がターゲットになるという推論からこのプロジェクトがはじまり、初回のはやぶさの奇跡の生還から満を持して今回の打ち上げの運びになった。そしてそこから持ち帰った物質を分析検証の末に、我々の住んでいる原初の地球のなりたちが解明されるであろう期待を載せて宇宙を飛んでいる。

自然科学では、地球の歴史はおよそ46億年という定説がある。現在そこには数千万種を超える生物がいると推定されている。そのすべてはたった一つの生命から始まった。それが36億年前頃の海の中ですべてが始まったと推定されている。
このアナロジーの根拠は
1・生命体はかなりの部分水を含んでおり、人間の体も7割が水でできている。
2、生命が生まれた頃は、オゾン層が形成されていなかったので、地表に生物にとって有害な紫外線が地表に降り注いでいたため、安全な水の中で生命体が進化を辿ることになる。
3・生命の体液の組織は海の塩の素性と酷使していて、かいつまんで言えば、生物とは海水に炭素、窒素、リンを加えた成分からなっている。
そして様々な有機物から、原始的なミクロの生命が誕生し、長い進化の中で多種多様な生命体が発生したと推定している。
(海の生き物100不思議ー東京大学海洋研究所編より抜粋)

前回の1号による奇跡の生還は、日本の先端技術の結集が成せる技であり、まさに芸術的な神業と言えるだろう。今回は前回よりパワーアップと技術革新で世界の期待を背負っている。6年後の結果が楽しみである。
それによって我々はゴーギャンではないが、「我々は何処から来たのか、何処かへ行くのか、我々は何者なのかが」少し見えてくるような気がする。言えることは無から有は生まれないという厳粛な事実であろうか。

2015年2月5日木曜日

政局探訪


昨年末に行われた総選挙で、図らずも私は入院中の病院の中で不在者投票をした。その結果は、足並みの乱れた野党を尻目に自民党圧勝の予想通りの結果となった。民主党をはじめとする不甲斐ない野党は分裂離散集合を繰り返し、その成れの果てが今回の選挙結果となったわけだ。小沢一郎しかり維新の会、みんなの党、それぞれ同床異夢の寝言にうなされ、内ゲバの結果くっ付いては離れ、あっけなく散って行く。

選挙後の民主党の中でも同じことが起きている。党首選を戦うご両人は自主再建派の岡田と他党との連合にこだわる細野との一騎打ちであったが、そこに長妻議員も名乗りをあげ、三つ巴の混戦状態となったが、年明けて岡田代表に落ち着いた。
腐っても民主党が野党の中核にならなければ議会制民主主義は廃れてしまうのだが。どうなることやら。過去の失敗を糧にして新しく力強い野党として再生してもらいたいものである。

さて選挙結果で自民党の長期政権が進むことになるが、財政再建、円安によるインフレ対策、経済政策による成長戦略などどこまで実現できるのか、はたまた憲法改正、集団的自衛権の法制化など、日本の国力が試される多くの懸案事項の成立にその実行力が問われるところだ。

今回の選挙結果で、安倍首相の任期は、2018年9月までとなり,米露韓の大統領を上回る任期となったが 、首相の慢心 でアベノミクスがアホノミクスにならないようにしてもらいたいものである。その浮かれ声とは裏腹に、経済格差は広がる一方で、一部上場企業の賃金は上がるものの、雇用の喪失による、非正規雇用やリストラによる中産階級の没落は止めようがない、成長を金科玉条に進んできた資本主義の末期症状を呈している日本がそこにある。確かに日本国民の経済実態は厳しいものがある。GDPこそ世界3位ではあるが、相対的貧困率は16・1%OECD加盟国34カ国中、下から第4位、父子母子家庭世帯のそれは54.6%で1位。2011年度の所得再分配ではジニ係数0・38と過去最大になり、ちなみに中国は0・61と国家暴動が起きても不思議ではない状況だ。

○ジニ係数   http://www.gifu.shotoku.ac.jp/hosoi/books/econdatabases/p100.htm

所得分配の不平等度を示す指標。「ジニ」はイタリアの統計学者の名前。ある国で所得が完全に均等に分配されている場合はジニ係数が0となり1に近づくほど不平等度が高いことを意味する。0.40を超えると暴動が起きるレベル。 
現在では、非正規雇用者が雇用者全体の三割を超え、年収200万未満で働く人が給与所得者の24%を占め、二人以上世帯で金融資産非保有が31%に達している日本の二極化も、資本の自由化が産んだグローバリゼーションの落とし子である。と結論づけている本がある。
集英社新書の最近読んだベストセラー[資本主義の終焉と歴史の危機ー水野和夫著  ]の中でエコノミストらしい緻密な分析で、歴史的に見た資本主義の推移と、低迷する世界経済の推移に共通点があることを導き出した。

それによるとアメリカを例に取り、リーマンショックなどを、利潤を生み出せない実体経済を延命させる手立てとして、バーチャルな電子金融空間を作り、余剰資本が世界を駆け巡り、実物経済の余剰マネー約74兆ドルに対して,電子金融空間での140兆ドルのストックベースの何十倍ものマネーが電子空間を徘徊する事になる。

本書の中で著者は資本主義の限界とは、資本の実物投資の利潤率が低下し、資本の拡大再生産ができなくなってしまうことで、日本のように長きに渡りゼロ金利が続いている状況が、臨界点に達した現象であると言及していて、過去の経済成長をもう一度と躍起になっていることは、過去の世界の経済史から見て最終的には財政破綻につながる道を歩んでいることと警鐘を鳴らしている。
また一方で、先進国の中で大規模なバブルをいち早く体験した日本は 、失われた20年の中で、ゼロ金利が続き経済成長が鈍化する資本主義の末期症状を呈しており、同じ病に陥った先進国のなかで、先を行く日本から、暗中模索の果てに、ほのかな希望として新たな資本主義のステージが生まれるのではないかと最後に著者は締め括っている。


さてアベノミクスだが、1金融緩和  (デフレからの脱却) 2財政政策 (公共投資)は一部ではあるが賃金上昇や株価上昇などの効果があったが、以前なら円安になると貿易黒字に直結して行くところだが、グローバル経済の元では、多くの企業が生産拠点を海外に移している現況では、円高によるあらゆる原材料が高騰し、輸入超過から生じる貿易赤字 の増大がみられる。そんな中での増税は、実質賃金が下がっている現状で消費が上がらず、GDPを0・3%マイナスにしてしまった結果をみれば、消費の冷え込みは想像以上だ。さらに10%の増税も思案のしどころだろう。

財務省がせっついているほど、日本の財政は逼迫していないと多くの経済アナリストは言及していることから、ここで性急に上げる必要はないと思う。そして第三の矢(成長戦略)は過剰な資本ストックを増やすだけで,危ういと感じているエコノミストも多い。財務省は、2013年度末の国のバランスシートをまとめ、2014年3月末時点で資産・負債差額(負債が資産を上回る債務超過額)は490兆円と発表したという報道があった。なぜここでだんまりを決め込んでいた政府が急に発表したのか不思議であるが、この場合の負債は問題になっている1143兆円で、負債の多さに目を奪われていた国民の多くは、国の資産の多さを知り少しは胸をなでおろしたのではないだろうか?

2015年2月4日水曜日

まさかの、、、


東京医科歯科大学附属病院
昨年6月 3 日の当ブログでも書いていた顎の骨の関節症が、その後治療開始から5ヶ月以上経って、下顎骨の癌と診断が下つたのは10月を半ばすぎた頃だった。途中親知らずを抜歯した後に術後の経過観察が続いたが、レントゲンも最初の一回だけで、顎関節症は長引くと言われていたことで漫然と痛み止めを続ける日々が続いた。
こちらの様子を見てようやく二回目のレントゲンを撮ったところ、様相が変わったと、くだんのヘボ医者が顔色を変え、翌日CTを撮ったところ、癌が進行しているとの診断で、急遽市内の専門病院を紹介されたが、それを蹴って日本で一番実績のある東京医科歯科大学病院の口腔外科の原田教授に直接メールでコンタクトを取り、」手術入院の運びとなった。

まさか顎の骨に癌が出来る事など想像だにしてなかったので、漫然と経過観察をしていた総合病院の口腔外科のバツの悪そうなヘボ医者の顔が眼にやきつく。癌のステージを正したところ、口ごもり2と言ったが、明らかにこの医者は嘘を言ってると直感した。

下顎の骨から発生した癌は、症例も少なく珍しいがんの種類に入るそうだが、ステージは4と言われたが幸いにしてリンパ節には転移してなかったのがせめてもの救いであった。顎関節の再構築の手術は17時間の長きに及んだが、術後は切断した顎に自前の肩甲骨の一部と付随した肉を下顎に移植したため、入院生活は非常に辛いものがあった。最後に25回の放射線(50グレイ)を当てた影響で、口内炎がひどくKOされたボクサーのように唇も舌も腫れ上がり、食事は流動食しか取れず、入院は3ヶ月を超え、体重も約八キロ落ちつらい日々だったが、カミさんにも私以上の苦労を掛けてしまった。その間会員の皆様を始め関係各位並びに多くの方々のご厚情を頂き、この紙面を借りて厚く御礼を申し上げます。

今思うと医療に関してはセカンドオピニオンは不可欠ということを実感した次第であるが、現在コンビニの数(全国で27000)より多い歯科医院は、玉石混交で需要と供給の経済原則から、地域人口の減少にともなう供給過多で、腕の悪い医者は消えて行き歯医者の経営も大変らしい。ただ地域の総合病院の口腔外科で設備が揃っているにもかかわらず、ガン発見まで五ヶ月を要したことは、こまめなレントゲン診断を怠ったこともさることながら、担当医師の感度の悪さを思わざるを得ない。

そのことに関連して昨年の四月から五ヶ月の間、ひどい肩こりに悩まされていたが、どうやら漢方では、「病膏こうにいたる(入る)」といって、病気がその位置にくると治りにくいと言われており、そのツボは肩甲骨と背骨の間を、上から指一本分下がったところにあり、私が集中的にマッサージ機でもんだところと左右一致する。文献では肺がんなどもここに頑固なコリがが出るらしいから要注意だ。術後は嘘みたいにコリが消えたが、五ヶ月間同じところを揉んだので、今でもその場所にアザが残っている。今回のことで漢方もバカにできないことが分かった。


医療の崩壊  (貧困大国アメリカの第三弾)


国民皆保険を目指したアメリカのオバマケアーは、海の向こうでは大変なことになっている。「がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用,高齢者は高額手術を避け痛み止めでOK。一粒10万円の薬。自殺率一位は医師で、手厚く治療すると罰金、やらずに死ねば遺族から訴訟。こんなことが1%の超富裕層(国を操るものたち)の手で進行している。その仕上げが、人類の生存と幸福に直結する「 医療」の分野だった。前にご紹介したアメリカに関する堤未果の最新のレポート第三弾「沈みゆく大国アメリカ」。現在TPPを交渉中の日本にとって、これはフィクションではなく明日の日本の姿になるかもしれない。と言及している。

現在医療費削減のため我が国は医療機関に対して、無駄な薬は出さないよう指導しているようで、実際医者にかかつていると医者は患者が要求しても必要以上の薬は出し渋っている。いわゆる高齢化社会に伴う医療財政の逼迫によって国からのお達しがあったのだろう。日本の近未来は様相は違うものの、やがてアメリカのような市場原理に医療現場が押し潰されて行く危機感とその可能性に、本書は警鐘を鳴らしている。

さて本書によると、周知のようにアメリカはクレジット社会で、国は国民に借金を奨励している。クレジットに占める医療費負担の割合が大きいのは、国が高額な医療費や製薬会社の法外な薬価(一粒10万円のすごい薬も出ているようだ)一部独占的な保険業者の高額な保険料などで、無保険者を含め低所得者のみならず、中産階級までが自己破産に向かって悲鳴をあげている。

そんな中でオバマ大統領が打ち出したオバマケアー(患者保護並びに医療費負担適正化法案)は国民皆保険制度を目指して立ち上げたものの,一部抵抗勢力(1%の富裕層、国を操るものたち)によって骨抜きにされている。
特にぼろ儲けの製薬会社に対しては、彼らの既得権である薬価の交渉権を政府は奪取できない状態だ。その内情は今後10年で見積もられる処方薬の総額360兆円のわずか2%(8兆円)の値下げとの引き換えに、
オバマが薬価交渉権という選挙公約を放棄する取引を業界との間で交わしていた事にある。

またオバマケアーは保険業界が既往歴や病気を理由にした保険の加入拒否を違法にしたが、業界は代わりに薬を値段ごとに7つのグループに分け、患者の自己負担率を定額制から一定率負担制に切り替えたから、患者負担は恐ろしく跳ね上がる結果となった
中産階級の没落と共に借金漬けで、7秒に一軒の家が差し押さえられ、労働人口の三人に一人が職につけず、六人に一人が貧困ライン以下の生活をする中、年間150万人の国民が自己破産者となって行く国アメリカ。市場原理が働く社会で、医療や保険の縛りで医師も看護師も過重労働をしいられ、医療という聖域に市場原理を推し進める業界の犠牲者である。


アメリカには65歳以上の高齢者と障害者、末期患者のための(  メディケアー)と最低所得層のための(  メディケイド)という二つの公的医療保険があるが、メディケイドは国からの治療費支払い率が、民間保険の六割と非常に低く、メディケアーは8割と高いため、メディケイド患者を見れば見るほど医師や病院は 赤字に追い込まれるため、これらの患者を見る医者が激減した。その裏には保険業界が牛耳る医療機関に対し、オバマケアー保険加入者を見る指定医療機関リストを大幅に縮小したり保険の支払い率を下げた業界の操作があった。
一方でがんじがらめの保険会社に提出する診療報酬のための膨大な書類提出作業と、高額な訴訟保険の備えで、ワーキンプアーになる医者も多いという。そして驚いたことにこの国の専門職の中で自殺率がトップの職業が医師という本書の報告である。

  またこのオバマケアーは皆保険制度を機能させるために様々なことを義務化する。その一番のハードルが(社員50人以上の全企業は、従業員へオバマケアー条件を満たす健康保険を提供すること。) これが従来の格安の企業保険からオバマケアー保険に送られ、企業側は保険の要件を満たさないと罰金まで食らうことになる。そのため企業側は人件費削減のため
労働者の非正規化を進めることになり、聖職である大学教授も非常勤講師に落とされ、今では全米の大学短大で非常勤講師の占める割合が、7割以上を占めている。国力の基盤である教育が資本の原理で崩壊してゆくことは、国家にとって由々しき問題であろう。


アメリカの医療はビジネスという理念で成り立っている皆保険制度に対して、日本のそれは、憲法25条生存権に元ずく社会保障の一環として成り立っており、そこには歴然とした隔たりがある。問題のTPPもさることながら、今後外資企業が日本の経営不振の医療法人を買収する可能性は十分あるが、命の沙汰も金次第と言ったドライな営利主義に凝り固まった強欲な銭ゲバ連中の動向には注意する必要がある。

今回入院で病院のお世話になって見て、高額医療の場で日本の国民皆保険制度の有難さが分かり、日本に生まれて良かったと実感する次第である。今や高齢化が進む我が国の医療財政が曲がり角にきており、その危機的状況も想像できるが、ここは国政を預かる政治家や官僚が知恵を絞って難局を乗り切ってもらいたい。