2015年4月18日土曜日

原油を巡る攻防

サウジアラビアの油田 弱り目祟り目のプーチン  米国シェール油田

近頃ハイブリット車に変えてから燃費が半減したこともあって、あまりガソリン代のことは考えなくなっていたが、それでも平成20年ころのリッター180円に迫るピーク時に比べれば120円台後半に落ち着いている現状では世界的な原油安の恩恵に被っているのであろう。思えば20代半ばに初めて車を持った時の、リッター50円台だったころが懐かしい。1000㏄のマツダファミリアだった。それから乗り換えた車が現在まで数えると8台になる。最近若者の車離れが言われているが、車の運転の楽しさは持った者でないとわからないだろう。国内の車メーカは若者の車需要の掘り起こしに躍起になっているところだ。

さてその原油安であるが、世界の工場である中国の原油需要の低迷や世界的な原油需要の低迷に加えて、原産国の増産あるいは、米国のシェール油田の開発などによる供給過多が原因とされているが、一番打撃を受けているのがロシア経済である。
ロシアはサウジアラビアに次ぐ世界第2位の産油国で、GDP(国内総生産)の75%を石油と天然ガスに依存する。ウクライナ問題に伴う米欧からの経済制裁も、ロシア経済を締め上げている。


80年代前半、レーガンとサウジが、合意のもと原油の量産をして、ロシアのアフガン侵攻を懲罰するため、生命線である原油価格の暴落を企て、旧ソ連が周知の通り崩壊したことは記憶に新しい。今回、2014年11月にロシアのクリミア侵攻に対して同じようなことが起こっているが、過去の原油暴落の経緯と少し様相が違ってきている。
ロシアには目立った産業がなく、天然ガスくらいしか輸出して外貨を稼げる手段がない。ロシアの輸出額は年間40兆円ほどであるが、その6割が天然ガスを中心とする資源類である。つまりロシアの経済はエネルギー価格に左右されており、エネルギー価格が下落すると、必要な物資の輸入にも事欠く状況となる可能性があるわけだ。過去半年にわたって原油価格が半減し、現に98年のデフォルト以来のルーブル暴落と物価の上昇率二桁のインフレが始まっている。

我々には冷戦時代の米国としのぎを削っていた旧ソ連の大国イメージが残っているが、軍事力の優劣はその国の経済水準に比例するという。ロシアはGDPの約4.5%を軍事費に費やしているが、そもそものGDPが小さいので軍事費はわずか9兆円にしかならない。これに対して米国は、やはりGDPの4.5%を軍事費に支出しているが、GDPそのものが大きいので、軍事費は約70兆円と巨額になり、ロシアの比ではない。。ちなみに中国は1000兆円のGDPがあり、その1.7%程度を軍事費に充てているから、軍事費は17兆円ということになる。中国と比較してもロシアは弱小の国ということになり、日本の場合約500兆円のGDPがあり、防衛費はその1%で約5兆円を支出している。つまりロシアの国内総生産(GDP)は200兆円で、米国の7分の1。軍事費は9兆円で米国の8分の1。もはや大国ではないのである。

これまでサウジは世界最大の原油生産国だった。だが国際エネルギー機関(IEA)は、すでに米国がサウジを抜いて原油と天然ガスで世界1位になったとしており、原油価格が下がればサウジも当然利益を落とすが、米国のシェールオイルは掘削にコストがかかることも織り込み済みで、原油価格が下がれば、米石油企業の中には赤字に直面し、サウジには米企業潰しの思惑も見えてくる。
近年、コストを抑えてシェールオイルを掘削する技術が導入されているが、一説では1バレル80ドルを切ると米シェールオイル生産の3分の1は採算割れとなるという。原油に関していえば、サウジもアメリカもロシアも三つ巴の我慢比べの様相を呈している。

2015年4月11日土曜日

アートな話「ルネ.マグリット」


  国立新美術館入口風景  マグリット〔光の帝国Ⅱ」


昔好きだったルネ・マグリットの展覧会が六本木の国立新美術館で開催されていたので、懐かしさも手伝って見に行った。
マグリットの絵画は、画家自身の言葉によれば、「目に見える思考」であり、世界が本来持っている神秘(不思議)を描かれたイメージとして提示したものである。この点は、夢や無意識の世界を描き出そうとした他のシュルレアリスムの画家とは異なっているが、マグリットの作品を見ていると、「言葉とイメージ」の問題が浮かび上がる。
それほど情緒言語や論理言語が入り混じる画題のタイトルの多様さに気付かされる。可視的な思考,すなわち眼に見えるかたちでの絵画的思考はマグリットの得意とするところだ。



「内-外」筆者20代の頃の作品 F100号

このイメージの魔術師に惚れて、私も20代の頃影響を受け日曜画家ながらシュールな絵を描いていた。遠い昔のことで正確な題名は覚えていないが、写真は私の連作「内ー外」の中の1作である。

意識下で流れる事象の類似性に着目したマグリットは、次のように述べている。「類似しているということは,思考だけの役目である。思考はそれが見たり聴いたり知ったりするところのものであることによって類似するのであり,世界が思考に差し出すところのものに生成する。」
マグリット的な思考は,それが見たり知ったりした,鳥のフォルムや《r8ve≫という文字に似ることによって,それらのイメージとなり,可視的な存在になる。つまり世界のどこにもない絵画作品に生成するのである。
類似は,直接的な認識を変更することなく,そうした認識へと生成する思考のことであり、だまし絵「トロンプ・ルイユ」のような描写における相似は,類似とは違う。現実をあるがままに模倣しようとする技術は,類似を実現する絵画でも必要ではあるが,類似の本質は技術的な精度の問題ではない。
類似であるような思考にとって不可欠な契機は,むしろインスピレーションという出来事である。日常的思考は思考様式に従属した思考であり、インスピレーションは日常的ではない出来事であり、思考が類似になるためには絶対に欠かせないものである。

表層意識において形象化された絵画は、平面に定着させたイメージに過ぎず、物としての実在ではない。我々が絵画を見るとき絶えず自分の視覚と画面との無言の対話をしている。
マグリットにおいては,芸術家の精神の領域に属する「類似」のほうに重心が置かれているが,それは「類似」が現実の事物間にある「相似」の関係を乗り越えた,超現実的な関係様式を指示する条件だからである。このマグリットの眼差しは、日常の表層世界の画一化された価値観や概念を否定する絵画的実践でもある。

◉ マグリット展 2015 3.25~6.29 国立新美術館 (東京 六本木)

2015年4月3日金曜日

泥船談義


AIIB「アジアインフラ投資銀行」は、習近平が2013年10月に設立を提唱した。表向きの目的は、「アジアのインフラを整備すること」であり、アジア、中央アジア、中東など、すでに31ヵ国が参加を表明している。インド、ベトナム、フィリピンなど、中国と領土問題を抱える国々も参加している。 しかも最近「親米」であるはずの欧州諸国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ルクセンブルグが「米国の制止を無視して」参加を表明している。米国は、「もっとも緊密な同盟国」の「裏切り」に動揺した。今、世界における米国の求心力が衰退していく様相を我々は目の当たりにする。それは米国主導のブレトンウッズ体制(つまり世界銀行・IMF体制)が崩れ、世界通貨の多極化が進行していることを意味している。

2008年の「リーマンショック」によって「100年に1度の大不況」が起こり、世界的経済危機で、米国は沈んだ。当初中国は、世界的に景気が最悪だった09年、9%を超える成長を果たし、「ひとり勝ち」状態になった。同国のGDPは2010年、日本を越え世界2位に浮上。衰退する米国」「浮上する中国」というトレンドが顕著になってきた。
IMFはドル基軸を(注)SDR基軸に代えるべきだという声が高まる中で、中国はSDRバスケットをG20まで広げるべきとしている。AIIB発足は国際通貨制度改革、つまりドル基軸制の終焉が前提であり、ドルを基軸とした国際金融機関から中国を中心に後進国、新興国、先進国が参加する新通貨制度(SDR)をベースにした国際金融機関を目指している。つまりAIIBの発足は、アメリカ一国の意志で返済不能の米国債と株式を買って、見た目をごまかすために発行されるドルを世界通貨にしておくわけにはいかないという世界のコンセンサスに基づいている。


そんな中でアメリカは昨年から日本、韓国、豪州等同盟国やEU主要国にAIIBに加盟しないよう訴えていたが、英国を筆頭にドイツ、フランス、その他の先進国は加盟を決めた。日本は「(運営などへの懸念を)払拭するような答えが来ていないとして不参加であるが、日本主導のアジア開発銀行などの運営や米国との同盟関係を考慮してのものとも考えられる。

(注)SDR「特別引出権」とは、全世界共通の通貨単位を表している。1SDRは2015年平成27年1月  時点で157.0796円で毎年変動する。


通貨戦争 

さて通貨を巡る世界の動きを時系列で追ってみると、1999年1月1日、「ドル基軸通貨体制」を崩壊させる可能性のある通貨「ユーロ」が誕生した。イラクのフセイン大統領(当時)は、「石油代金として今後一切ドルは受け取らない」「今後は、ユーロで取引する」と宣言。そして、同年11月、実際に決済通貨を変えてしまった。そして米国はドル防衛のためにイラク戦争の引き金を引いた。
フランスは、志を同じくするドイツ、そしてロシア、中国を巻き込み、国連安保理でイラク戦争に反対するがしかし、米国は安保理を無視してイラク戦争を開始、フセイン政権を打倒した。
一方ロシアではは03年、「イラク問題」「ユコス問題」「グルジア・バラ革命」、04年「ウクライナ・オレンジ革命」、05年「キルギス・チューリップ革命」などで、ことごとく米国と対立。原油高の追い風に乗ってプーチンは07年6月、「ドル体制をぶち壊して、ルーブルを世界通貨にする!」と宣言した。

そして中国であるが、中国通で知られる評論家宮崎正弘氏は、「中国が目ざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)なるものは国際金融機関ではなく中国共産党の世界戦略にもとづく政治工作機関であり、あわよくば米国主導のブレトンウッズ体制(つまり世界銀行・IMF体制)に替る中国主導の金融秩序構築を模索するものであること。すなわちドル基軸体制に真っ向から挑戦し、人民元基軸体制をアジアに構築しようという壮大な野心から生まれたものであり、この銀行を設立することは中国経済のひずみを解決するための出口でもある」と言及している。
このシステムは余剰生産の鉄鋼、セメント、建材、石油副産物などの国内在庫を一斉するための吐き出し機関ともなりうるし、失業対策に悩む中国が諸外国にプロジェクトを持ちかけ、それをファイナンスすることによって大量の中国人失業者を海外へ送り出せるメリットがあるとしている。
 
昨今中国経済のバブル崩壊が話題になっているが、宮崎氏によると、その実態は虚構の中でうかがい知ることになる。世界中が幻惑されたのは、中国の外貨準備が世界一という数字のトリックだった。中国の外貨準備は3兆4830億ドル(14年末)とされるが、CIA系シンクタンクの調査ではすでに「不正に外国へ持ち出された外貨」が3兆7800億ドルである。その上中国は猛烈に海外から外貨を借りまくっていて、外貨準備増加額より外国金融機関からの借り入れ額が上回っているそうだ。周知のとおり中国経済の成長率は年々鈍化し、賃金上昇から外資が逃げ出しているという現実もあるが、なによりGDPの下支えをしているの莫大な不動産投資による地方政府の財政破たんや迫ってくるバブル崩壊、やがて来るだろう2億人近くの雇用喪失など、実際、この国の経済的繁栄は「終焉間近」という意見が多い。大紀元によると、シャドウバンクに支えられた地方債務の総額が少なくとも36兆元(約680兆円)を超えるとされている。

米国も泥船だが、中国は得体のしれない泥船であるにもかかわらず、上述した多くの国がこの船に乗り移っているさまは私には奇妙に思えてならないのだが。