2015年7月26日日曜日

アートな話「動きのカガク展」

動きのカガク展 入口風景

「動きのカガク展」が、6月19日(金)から9月27日(日)までの期間、六本木ミッドタウン DESIGN SIGHTで開催されているので、月に一度の通院の帰りに見に行ってきた。内外の作家や学生、企業との協働による多彩な「動く」作品を展示している会場には、所狭しとコンクリートの打ちっぱなしの空間に作品群が生物のようにうごめいていた。

モノづくりに携わっている人間にとって、作品を構成する要素のなかでデザインは非常に重要なウエイトを占めている。
それは従来の絵画や彫刻などのメディアアートの時代から進化し続ける情報化社会のテクノロジーを駆使したニューメディアアートとして動きをデザインする「モーション・デザイン」が、色や形を超えて時代の科学を支えている装置としての原理や仕組み、あるいは発想の原点のようなものを、制作にかかわった道具や素材の解説を試み、見るものに体験をうながす流れになっている。
我々の身の回りで見かける原始的な仕組みから最先端の制御装置やロボットなどの動きに関連したものや、視覚のイリュージョンを呼び起こす各種動力装置など、どれもが見るものを楽しませてくれる。印象に残った作品を2~3紹介してみよう。

最初の入り口に展示していた
    


<シックスティー・エイト>

ニルズ・フェルカー

ドイツ人アーティストによる作品。プログラミングされたポンプを使い、68枚のポリ袋が波のように伸縮し呼吸するような動きを見せる。因みにドイツではこの青色に加えてグレーのポリ袋が主流とのこと。



atOms」岸 遼       《124のdcモーター、コットンボール、53×53×53cmのダンボール箱》  ジモウン 2015年

    
上の2作品は素材の違いこそあれ、ボールの動きの静止バランスを風量による調整でコントロールされたものと、片や長さの異なるピアノ線に繋がれたボールが小型モーターで振動し、円筒形に積み上げられた段ボールを打ち鳴らし、内部空間に入ったとたん共鳴音が生みだす効果に驚いた。



レイヤー・オブ・エア》沼倉真理 2015
透明感のある素材を使ったカーテンを風で揺らして、そこにプロジェクターから不規則な光を当てカーテンをスクリーンに見立てて、そこに映し出された数々の映像イメージがおもしろい効果を出している。






 

《リフレクション・イン・ザ・スカルプチャー》

 生永麻衣+安住仁史  2015


 
右の作品は 1枚の布にステンレスミラーを貼り合わせて折ったものを伸縮させることで、多様な光の反射を見せるシャンデリアのようなものが天井からぶら下がり、これもモーターで伸縮させている。昔キャバレーで見たミラーボールを思い出す。










最後にこの展覧会の主催者側のコンセプトとギャラリーディレクター菱川勢一氏のコメントをご紹介する。



 
表現に「動き」をもたらしたモーション・デザイン。その技術は、車両制御システムや地図アプリケーション、通信技術やSNSの普及など、私たちの快適で便利な日常生活を支えている。また、プロダクトをはじめグラフィックや映像における躍動的な描写を可能にし、感性に訴えるより豊かな表現をつくりだしている。 今日のデザイナーは、エンジニアリングの手法も駆使しながら、先端技術を用いたものづくりを展開している。私たちの生活に欠かせない様々な動くツールやその仕組みは、デザイナーや企業の研究と実験の連続から生まれている。自らのアイデアが形となり、動き出す――その瞬間の純粋な喜びこそが、ものづくりの楽しさだと言えるのではないだろうか。
「動き」がもたらす表現力に触れ、観察し、その構造を理解し体験することで、ものづくりの楽しさを感じ、科学技術の発展とデザインの関係を改めて考える展覧会となるだろう。


ディレクターズ メッセージ  


この展覧会の「動き」というテーマの中には、「重力」「慣性」「波長」といった、デジタル社会においてもまだ完全に解明されていない現象への想像力を込めました。情報が溢れている現代だからこそ、自然科学だけではなく文化や経済といった人間の営みまでを「動き」という視点で横断的に捉えなおす機会になればと考えています。(中略)

つくることは決してブラックボックスではなく、いろんな人がチームとして参加することで流れだす、ひとつの「動き」なんだという認識が広まることを願っています。それは、展示を観に来る子どもたちだけではなく大人たちにも伝えたいことです。

 菱川勢一


 

2015年7月18日土曜日

政局探訪


集団的自衛権行使容認を柱とする安全保障関連法案は,15日の衆院特別委員会で、自民・公明両党の賛成多数で可決された。
浜田靖一委員長が質疑の終局を宣言すると、民主党の議員らが委員長席を取り囲み抗議する中、採決が行われ、法案が可決された。そして維新提出の対案は否決された。
国会周辺は法案採決に反対する人で埋め尽くされ、深夜まで抗議が続いた。
安倍総理は採決に先立つ質疑の中で「まだ国民の理解が進んでいないのも事実だ」と認めていたが、採決後、「国会での審議はさらに続く。国民に丁寧に分かりやすく説明していきたい」とも語った。

法案が衆院を通過すれば、9月中旬には参院で議決されなくても、衆院の2/3以上の賛成で再議決すれば、法案を成立させることができる「60日ルール」の適用が可能になると言われている。
ほとんどの憲法学者が違憲とする今回の騒動であるが、そもそも 憲法9条は日本がアメリカの支配から独立し、主権を回復した1952年に本来改正されるべきであったのに出来なかったのだから、今日政治の場で憲法9条を盾に議論するのは過去の議論であって現実的でなく、米国の衰退と裏腹に増長を続け、アジアの覇権を画策する中国の台頭が進む国際状況のなかで、安全情勢を鑑みれば、金科玉条のごとく死守する憲法のための憲法議論に費やすることより、国家と国民の生命と財産を守るために「必要最大限度」の防衛政策を構築するのが「政治の責任」であることは阿部首相が言うまでもないことである。

戦後70年日米安保体制のもと、平和と繁栄ををむさぼり続けてきた我々国民にとって有難い憲法9条。その長くて甘い夢から目覚める時期が来たことは、大なり小なり国民は感じている。世界のどの国もその時代にそぐわない憲法は順次改正をしてきた歴史がある。我が国も例外ではない。ただ国民の大多数の民意が憲法改正に向かうのは、5年いや10年先まで時間がかかると、時の為政者は思っているのだろう。集団的自衛権という国際的でグローバルスタンダードが、憲法解釈によって法制化の道筋をつけたことは、性急すぎる感は否めないが、待ったなしのアジア情勢の中、これも我が国が主権国家として、世界にアピールする一つの政治的な英断であろう。

尖閣諸島の領海侵犯や小笠原周辺に押し寄せた赤サンゴ密漁魚船に有効に対処できていないことや、知らないうちに南沙諸島の強奪に似たようなことが、南シナ海に目を奪われているすきに,
東シナ海の共同開発油田基地の軍事転用化が疑われている昨今、中国は、19世紀型の帝国主義の時代に逆戻りしつつある。その欺瞞に満ちた拡張主義と狡猾な国民性に気付いた世界は、中国に対して警戒感を強めるようになった。あの弱腰のオバマさえ対中国政策を見直し始めた。わが国も国力を強めて国益を守らなければならなくなっている。憲法のための憲法といった机上の空論を続けても国は守れない。

        ●  脱皮できない蛇は滅びる 。 (ニーチェ)

2015年7月9日木曜日

弱者の恫喝

ATMの前で現金を引き出すギリシャ国民

先進国で初めて事実上の債務不履行(デフォルト)に陥ったギリシャ。金融市場は与党・急進左派連合の瀬戸際戦略に翻弄され続けている。
そもそも、債務が膨れ上がってデフォルト(債務不履行)の瀬戸際に立たされていたギリシャでは、2428億ユーロ(約42兆円)の借金を踏み倒したい与党・急進左派連合のチプラス政権と、支援する代わりに緊縮策を迫る欧州連合(EU)などの債権団が激しく対立してきた。まとまるとみられていた両者の交渉が決裂すると、チプラス首相は突如、債権団の緊縮策の受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に実施するという奇策に出た結果、財政再建策への反対派多数が確実となった。

反対派が多数を占めた結果、債権団との交渉決裂の流れを反映して、金融市場は世界同時株安の様相を呈し、日経平均は前日比596円安と今年最大の下げを記録した。さらに30日には、国際通貨基金(IМF)からの融資を期限までに返済できなかったことから、先進国では初めて事実上のデフォルトに陥った。しかも、国内では“預金封鎖”という禁じ手まで繰り出し、市民生活を直撃している。

問題のギリシャ政府債務の約80%はEU、IMF、欧州中央銀行(ECB)が保有していることなどもあり、世界経済への影響は限定的との見方が大半を占めるが,今日までのギリシャが辿った道のりを概観すると

2010年〜2014年
欧州連合(EU)が緊急財務相会合で国際通貨基金(IMF)と共に、財政危機に陥っているギリシャに対して今後3年間で1100億ユーロ(約11兆7千億円)の融資を実施することで合意。また国際通貨基金(IMF)が55億ユーロ(約5800億円)の融資を実施することで合意。
その見返りとして、ギリシャ政府は3年間で300億ユーロの財政赤字を削減することをEUなどに約束し、増税や行政サービスの歳出カット、公務員のリストラなどを実施。しかし公務員や多くの国民はこれに強く反対、デモやストライキが繰り返される。

 2015年 
総選挙により、EU側がギリシャに強いた緊縮策に不満を持つ国民の支持を集め、反緊縮政策を掲げる急進左派連合が圧勝。チプラス新内閣が発足。
同国への国際金融支援の条件となっている幾つかの緊縮措置を撤回する計画を公表。
また、第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるギリシャ占領で被った損害の賠償として、ドイツに対して1620億ユーロ(約22兆円)を請求する権利があると主張。一種の恫喝である。
ギリシャの公務員の比率は、就労者の約25%。4人に一人が公務員である。しかも民間よりも給与待遇面で優遇され58歳から年金が支給されるなど、キリギリスのような役人天国。ちなみに、日本の公務員の割合は3%だ。

ギリシャは財政赤字を垂れ流す放蕩国家危機が明らかになったのは国家の「粉飾決算」が発端だ。ユーロに加入するには、財政赤字はGDPの3%以内という定めがあったにもかかわらず、粉飾決算して誤魔化し続けてきたが、2009年に、対GDP比で12.7%もの財政赤字が表面化し、EUの火種としてギリシャ危機がずっとくすぶり続けている。
もともとEUは経済地盤の強い国だけだと、ユーロの通貨高が輸出を妨げるためギリシャのような弱小国を取り入れることで、ユーロ安で恩恵に預かっているのがドイツであり,EUにおけるリーダーでもあるが、ここにきてギリシャに足元をすくわれている。

ギリシャでは1日60ユーロまでしかATMで引き出すことができなくなっていて、クレジットカードなども利用ができなくなっている。ドイツがギリシャを簡単に見捨てることは、ギリシャ国債の*CDSに売り手の多くを占めているドイツの銀行は、数兆円単位の支払いを請求されるであろうと言われている。メルケル首相としても、ギリシャのデフォルトは、ドイツの金融システムを守る意味でも何としても回避したいという思惑を知ってか、借りた者勝ちのギリシャは開き直っている。我が国の隣国韓国も弱者の恫喝を続けている様は背景こそ違うが似た者同士だ。また経済が弱体化してきたロシアのプーチンも、ここにきて欧米に対して、やたら核の恫喝発言をしていているのも目に留まる現象である。