2014年6月25日水曜日

先細る海洋資源

昨年東京湾で見つかったナガスクジラ

日本人になじみの深いクジラ、ウナギ、本マグロの三種は、いずれも高級食材であるが、これらを取り巻く世界の自然保護の目は年々厳しくなっている。
自然保護の立場からワシントン条約は、野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することにより、採取・捕獲を抑制して絶滅のおそれのある野生動植物の保護をはかることを目的に適用されている。日本は、同条約規制対象種中6種(クジラ6種)については、持続的利用が可能なだけの資源量があるという客観的判断から留保している。

今年、国際司法裁判所が判決を下したのは、南極海で日本が行っている調査捕鯨が商業捕鯨に限りなく近いといった判定である。日本は南緯60度以南の南極海で、およそ30年にわたって鯨の生態を調べるための調査捕鯨をおこなってきた。対象はミンククジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラなど3種。捕鯨反対国に対する配慮や、環境保護団体シーシェパートの妨害などで、実際に取っている数は100頭あまりであるが、毎年1000頭以上の捕獲を目標としている。捕獲量の問題と思想的なギャップからオーストラリアは4年前、日本が南極海で行っている調査捕鯨は、実態は商業的な目的を持った捕鯨であり、国際捕鯨取り締まり条約に違反しているとして、国際司法裁判所に訴えそれが認められた格好になった。今後この貴重なクジラが食べれなくなると憂いていた矢先に、ラジオショッピングで鯨肉の宣伝をしていたので、忘れていたクジラが食いたくなって思わず冷凍ブロックになったナガスクジラを購入してみた。加熱した味は昔懐かしい小学校給食で食べたクジラであるが、刺身は赤身だったので期待したほどではなかった。尾の身などのうまい部分は一般消費者には回ってこないとは思うが。


日本うなぎ
土用の丑の日を前に、うなぎの需要のピークを翌月に控え、うなぎ業界に衝撃が走った。6月12日、世界の科学者で組織する国際自然保護連合(IUCN、スイス)が、絶滅の恐れがある野生動物を指定する「レッドリスト」にニホンウナギを加えた。IUCNのレッドリストには法的拘束力はなく、うなぎが禁漁になるなどただちに業界に大きな影響が及ぶものではない。だが、ワシントン条約はこのレッドリストを保護対象の野生動物を決める際に参考としており、今後、ニホンウナギが規制の対象になる可能性がでてきた。
ワシントン条約では絶滅の可能性がある野生動植物(絶滅危惧種)を保護するため、対象となる動植物の輸出入を規制している。国産うなぎは99%以上が養殖だ。明治時代から100年以上の歴史があり技術も確立しているが、卵を孵化させて成魚まで育てる完全養殖はまだ量産化されていない。そのため、シラスウナギと呼ぶ、ニホンウナギの天然の稚魚を6カ月から1年半、育てて出荷するようだ。

このシラスウナギは近年、日本近海での漁獲高が減少し、半数以上が中国や台湾など海外からの輸入に頼っている。シラスウナギが海外からの輸入であっても、日本国内で養殖すれば「国産」をうたえる。もはやシラスウナギの輸入は国産うなぎにとって不可欠になっている。そのため、ワシントン条約でニホンウナギの取引が規制されれば、シラスウナギを輸入できなくなり、養殖業者に打撃となる可能性がある。個体数が減少して、絶滅危惧種に指定されたニホンウナギの稚魚シラスウナギではあるが、昨年12月からはじまった漁でも各地で不漁が深刻化しているようで、台湾からの輸入シラスウナギも1キロあたり200万円台と高値で推移。今年の夏もウナギの価格高騰は必至といった状況で、中国産ウナギを除いて国内養殖のウナギは庶民の手の届かない魚となりつつある。店によっては廃業するところも出てきているらしい。


筑地のマグロのセリ
 
マグロの王様クロマグロの状況も厳しい。「大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)」において、大西洋東部(地中海も含む)のクロマグロ漁獲量を2割減らす事が決まった。この海域は世界でも有数のクロマグロの漁場である。日本は北太平洋海域で揚がるクロマグロの大半を消費。大西洋では禁止されている未成魚が匹数ベースで漁獲のほぼ全量を占める。成魚の市場価格が1キロ数千円以上なのに対し、「メジマグロ」の名称で流通する未成魚は千円前後。最高級のクロマグロの幼魚としてブランド価値があり割安なため、スーパーや鮮魚店から重宝がられている。夏から秋にかけて相模湾で釣れる通称メジと呼ばれている3~5キロのクロマグロの幼魚で、これが最近流行りの蓄養マグロ(近大マグロ)の元になる。
昨今中国などがマグロを大量消費するために、マグロの需要が増え、台湾漁船などによる乱獲などで天然マグロの減少が続いている。天然マグロの減少は地球上の天然資源の減少でもあるので、環境の問題と重なり大きな論争を巻き起こしている。TVなどで築地市場の画面が出てくるが、国産マグロは非常に少なく、ほとんどが各地からの輸入ものか、遠洋のマグロ船から日本の港に揚げられたものである。
限りある海の資源を考えると、天然マグロに現在起きていることは、そのまま地球が現在抱えている問題にもつながっている。つまり地球環境よりも人間の欲求を優先してきたため、人間を取り巻く生態系が急速に変化し始めているのだ。世界中で飽くなき食欲に裏打ちされた人類の胃袋が肥大化する中で始まったマグロの畜養は、いくら鮪の需要が高いからと言って天然マグロをむやみにとり、それを本来とはあまりにかけ離れた環境で成育し続けると、近い将来必ず生態系に何らかの影響を及ぼすはずだと指摘する専門家は多い。わたしも近大マグロを食べたことがあるが、全身トロ の魚体でうまいが身にしまりがなくぶよぶよした印象だった。

乱獲により、日本近海を含む北太平洋海域で親魚の資源量は過去最低水準まで減少している。いわば、安さと引き換えに将来の資源を先食いしている状態でもある。そのような状況下で、資源枯渇を防ぐため、規制が強化される。WCPFC会合で北太平洋海域の未成魚(3歳以下)の漁獲枠を2014年に02~04年の各国の実績に比べ15%削減することが正式に決まる見通しだ
クロマグロの世界全体の漁獲量(11年)は約3.3万トンで、うち大西洋は3分の1強を占めている。日本は世界のクロマグロの7~8割を消費しているとされる。ここらで日本の食文化も過食の呪縛から解かれる時期に来ているとは言えないだろうか。

2014年6月10日火曜日

アートな話「線について」

線と面が一体の作品
作者不詳

図案を起こすとき、そのよりどころになるのは1本の線である。何本もの錯綜した線がイメージの器から湧き出ては消え、新たな線を生み出す。事物の観察は数多くのデッサン、スケッチによってイメージとして蓄積されていくものだが、目に見える「形」に表現する要素の最小の単位は、「点」である。ある点が別な所へ移動したその軌跡が「線」を作り出す。また、点を集結させることによって「面」が出来る。点・線・面は表現の基本要素であり、それを用いて、構図、配置を決めていくまでに葛藤があり、やがてひとつひとつ決断をしていかなければならない。点・線・面の中で、最小でかつ簡単に、「形」を認識することのできる表現が可能なのは「線」である。

事物の形態は線で縁取りされているわけではないが、面として実在する事物は点の集積でもあり線の集積でもある。面と面を分けるエッジは線で表現される。1つの点の移動した跡、つまり軌跡によって生じる線は形を表現するベースの要素と言える。日常で我々は少なからず線的思考を重ねている。世界が分子、粒子のような点であっても、それらが動きつつあるもの、動勢、軌跡、過程、それら自然の造形を線として表現することにも慣れている。
私が図案を起こすときは、下絵をラフに不定形な線で趣くままに描き、仕上げはトレーシングペーパーで、下絵の中の無数の線から一本ずつ選び修正していく手法をとっている。
線には、見る者に何らかの感覚や感情を生じさせる「線の力」や「線の表情」といった風合いがある。平面における絵画空間あるいはデザインにおけるラフスケッチなど、線によって様々な表現がなされる。
絵画においては輪郭線のはっきりしたものや,曖昧なものまでいろいろな絵があるが、輪郭線は、現実には存在しない非存在の線である。現実の物や人体が、線で囲まれているわけではないが、しかし、絵画における様々な輪郭線を見てみると、 形が確定したことによって意味が生じ、平面的な感じが表現される。また形に動きや量感がでて、形が背景に溶け込み広さや深さと結びつき、共有する輪郭線によって異なる空間が現れる。絵画において直線が少ないのは、直線は、どこまでも幾何学上の線で無機的なものであるからだろう。

左はスイス出身の彫刻家アルベルト・ジャコメッティ(1901~1966)の人物デッサンで重なり合う輪郭線が特徴的で、線の集合は量感を生み出し男の存在感を際立たせている。浮世絵や日本画は線を基調にした表現が多いが、線が生み出す空間意識や構図のとらえ方は、特に浮世絵で顕著にみられ、西欧の画家たちに多大な影響を与えたことは周知のとおりである。

2014年6月3日火曜日

身辺雑記


顎関節症の部位
4月頃に材料の鉋掛けから、トリマーまで使い木地づくりを10個ばかりやってみたが、そのころから例年になく肩こりがひどく、首から顎にかけての痛みもひどくなり、家にあるマッサージ器でもみほぐしてみたものの、なかなか治らず、口腔外科で見てもらったら、右頬の痛みが顎関節症という診断だった。その後痛み止めを飲んだり、近所の鍼灸院で針を打ってもらったりして1週間ほどで痛みのピークは過ぎたので、そのうち治るだろうとたかをくくっていたが 6月に入ってもまだ痛みは残っている。

顎関節症というのは、あごを動かす筋肉に痛みや違和感を感じるもので、首筋や肩の筋肉に連動していて、肩こりもひどくなるのが特徴である。特に若い女性に多い病気らしいが、最近ではこんなおっさんでも増えているらしい。一番つらいのは口を開けるのが痛く、最初は指1本口にやっと入る程度しか入らなかったものが、最近では大口も開けられるようになったので食事も普通にできるようになった。5月半ばごろに情けなかったのは、すし屋で握りを食べる時まともに口が開かないので、ネタを最初に押し込み、シャリを小分けにして口に入れていたら寿司屋の親父に怪訝そうな顔で見られたことだ。痛みで渋い顔をしながらまずそうに食ってる印象だったのだろう。それにしても2か月以上たった今でもまだ完治せず、痛みは残っている厄介な病である。同じ姿勢で長時間仕事をしている人や、歯を食いしばって作業をしているご同輩は要注意。肩の力を抜いてリラックスして根を詰めないことが肝要である。


西洋鉋と西洋鋸

わたしの工房には木地づくりのための電動工具が何種類かあるが、これらは木取りと言って材料を切ったり、削ったり、穴をあけたりするのに効率よく楽に作業ができる道具である。しかし最終的な仕上げは、すべて一般的な大工道具を使っての手作業である。代表的な道具である鋸や鉋などはもともとヨーロッパから来たもので、日本のものとは使い方が真逆で押して使う。日本の道具は引いて使うことから西洋よりも緻密な作業が出来て使いやすい。実際に使ってみて鋸にしろ鉋にしろ引くほうが楽である。西洋人の身体構造と日本人の身体構造の違いとも言えるが、感覚的なものもあって、能動的で荒削りな押す文化と受動的で繊細な引く文化とも言えるだろう。

愛用の仕上げ用の鉋と鋸

あえて西欧の道具を使う日本人は少ないが、日本の道具を愛用している西洋人は多いと聞く。とにかく力加減の自在性に優れ、細かい仕事ができるのである。刃物も日本には優れたものが多く、日本に来る外人でも知る人は日本の包丁を土産にするらしい。特に和包丁は洋包丁と違って片刃仕上げになっており、洋包丁が肉を叩き切る食文化の上に形作られてきた部分があるのに対し、和包丁は魚を引き切る食文化の上に発達してきた違いがある。西洋料理人がTVで調理をしているのを見ていると包丁さばきも押し切りである。いずれにせよ切れ味を左右するのは、ふだんの道具の手入れと調整であることには変わりがない。