2011年7月7日木曜日

嫌な空気

山本七平氏の書に<空気の研究>と言うものがある。今の異様な政治状況を考察するのに通じるものがあるのでその一節をご紹介しよう。


《「空気」とは何であろうか。それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断基準」であり、それに抵抗する者を異端として、「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力をもつ超能力である》

《われわれは常に、論理的判断の基準と、空気的判断の基準という、一種の二重基準のもとに生きている》

《気になり出すと、この言葉は一つの?絶対の権威?の如くに至るところに顔を出して、驚くべき力を振るっているのに気づく》

《空気の責任はだれも追及できないし、空気がどのような論理的過程をへてその結論に達したかは、探求の方法がない》


さて昨今の政治のドタバタ劇は、震災復興相の辞任に極まった感がするが。任命責任者の管首相は、与野党からも見放され、国民からも見放され、四面楚歌の渦中にある。自分を取り巻く空気に人一倍敏感な管首相は、権力の魔力に取りつかれたかのように一向に辞任時期を明確にせず、のらりくらりと無益な時間を過ごしているのは、背後に管を動かしている得体のしれないもの(米国?)があるのではないかと勘繰りたくもなるほどの粘り腰である。

首相を取り巻くこれら抵抗勢力は、山本七平氏の言葉を借りれば「水」である。一般的にある一言が「水を差す」と、その場の空気が崩壊するわけだが、その場合の「水」は通常最も具体的な目前の障害を意味しており、それを口にすることにより即座に人々を現実に引き戻すことを意味している。

空気は移ろいやすい。言葉を換えればムードである。個々の決定を拘束し得ても、通常性の裏打ちがなければならない。首相の発言政策決定はその場のムードでコロコロ変わる。原発事故による情報の隠ぺいや、思いつきの指示、外交上の不手際など数え上げたらきりがない。


山本氏の言葉を借りれば虚構の中に真実を求める社会が体制になった(虚構の支配機構)では秩序を維持しようとすれば、すべての集団は、「劇場のごとき閉鎖性」を持たなければならず、情報統制を敷いた閉鎖集団となる。そのため重要な政治決定が国民を蚊帳の外に置いたところで推進されていく。
いわばその集団内の演劇に支障なき形に改編された情報しか伝えられず、そうしなければ秩序が保てない世界になっていく。
しかるに民主党の掲げたマニュフェストもまた虚構である。ついこの間、発信した管首相の第二の開国宣言(TTP参加)も軽々しく決定するような問題でないのでこの件について少し言及してみよう。


そもそもTPP環太平洋パートナーシップ協定:Trans-Pacific PartnershipAgreement)とは何か。関税を最終的には撤廃して自由貿易を推進しようというものである。

ちなみに、TPPとは関税撤廃を柱とするFTA(二国間または地域間の協定により、関税や数量制限など貿易の障害となる壁を相互に撤廃し、自由貿易を行なうことによって相互利益を図る協定のこと)を多国間で同時に結ぶものだ。2006年にチリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイの4ヶ国で発効したのが始まりで、その後、米国、オーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナムが参加の意思を表明して、交渉を開始している。

国が情報を公開しておらず我々国民は知らされていないが、TTPは単純に個別の産業が利益を受けたり損なったりという問題ではなく、国のかたちが特定の国(米国)によって変えられるという重大な問題が潜んでいる。中身は上の表の通り。

先に当ブログで言及した、米国がわが国に毎年示している年次改革要望書を思い出していただきたい。それが2008年を最後に止まってしまったが、どっこい水面下で米国政府は糸口を模索していた。それがより強力な9カ国を巻き込んでの協定を目論んだシナリオである。その中身は24項目に分類されており、このうち金融と投資と紛争解決の項目は国家主権が脅かされる危険があると、ノンフィクション作家関岡英之氏は述べている。この国際協定は年次改革要望書よりも拘束力と強制力が強いため安易に第二の開国と宣言した管首相は深い思慮もなくアメリカに耳触りの良いスローガンを掲げたが、TPPは日本を危殆に陥れる危険性を孕んでいる。特に注意点は以下の項目である。

○サービス金融 郵貯などの国民の金融資産の運用

○投資 内国民待遇による土地や企業の買収。 外資の規制が出来ない危うい事態。

○紛争解決 投資家VS国家で問題が生じた場合、外資が相手国の政府を告訴できる

○労働 外国人労働者の参入、中国などが参入してきたら大変なことになる
 雇用の喪失 (特にマニュフェストにはない外国人の参政権を画策している民主党においては非  常に危険な項目である。移民を受け入れた国はことごとく失敗している。)

昨年までTPPは目だたない小国どうしの経済連携体であった。オバマ米大統領はその小国の連携に手を突っ込むことで、TPPを大きく変えた。ディフォルト寸前の落ち目の米国にとって、TPPはこの地域で米国が中 国に対抗して主導権を取れる唯一の経済連携グループとなったのである。TPPにかむことはそのまま米国をサポートすることにつながる。TPPは菅政権に とって普天間で揺るぎ、尖閣でその効用を再認識させられた日米同盟を立て直す切り札だった。それは経済政策というより政治的選択だったのである。沖縄 の人々の思いより日米同盟優先でキャンペーンを張った主流メディアがTPP支持に回ったのも当然の帰結だった。

TPPは米国にとって都合のいい条約で、日本がおこなうべきは、むしろ米国との2国間FTA交渉だろう。TPP加盟国と日本のGDPを見てみても約9割が日米で占めており、事実上TPPは日米貿易の色が濃く、TPPを突如言い出したオバマ政権の意図は「米国の雇用増大、輸出2倍」という選挙目当ての公約。このために日本市場をさらにこじ開けて米国農産物を買わせる。日本国内でもアメリカ人のジョブを増やすため、格好の材料として活用される。

米国からの圧力があったのだろうが、TPP議論は日本でも、突如「政治配慮」として浮かんできた。しかも日本の主要メディアが何故か前向きに検討を、積極的に参加を、これこそがグローバル化、バスに乗り遅れるな等々、空疎なご託を並べて思考停止の管政権に「ご注進」を始めたのである。
不思議な流れがふっと現れた場合、背後に巨大な動き、見えない政治圧力の存在がある。

日本は1858年の日米修好通商条約以来,関税自主権がなく税率を相手国と相談してきめる不平等条約を強いられてきた。その関税自主権を回復し,欧米諸国と完全に対等の立場にたつのは,開国から約(60年後の1911(明治44年)のことであった。

米国は貿易赤字を減らすことを国家経済目標にしていて、オバマ大統領は5年間で輸出を2倍に増やすと言っている。米国は輸出倍増戦略の一環としてTPPを仕掛けており、日本は米国とFTAすら結べていないのに、もっとハードルが高く不利な条件でTPPという自由貿易を結ぼうとしている。TPPは過激な自由貿易協定に過ぎず、単にわが国の農業が壊滅するという話ではない。

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