2010年7月3日土曜日

中国経済の屋台骨


中国はこれまで、「安い労働力を求める外資」により「世界の工場」として成長してきた。そんな中国で今、賃金引き上げを求める工場労働者の“反乱”が全土に広がっている。台湾系EMS(エレクトロニクス製品の受託製造会社)大手の富士康で起きた生産ライン労働者の連続自殺がきっかけだが、底流には急激な経済成長にもかかわらず低賃金と劣悪な環境にとめ置かれてきた中国の最底辺労働者の蓄積した不満がある。富士康や、同じくストライキが起きた広州ホンダは賃金引き上げに応じたが、この勢いで中国全土の工場労働者の賃金が急上昇することが予想される。



富士康は世界最大のEMSである台湾の鴻海精密工業が中国に工場展開する際に設立したグループ会社で、鴻海が受託する製品の8割以上は、富士康が中国全土に展開する工場で生産されている。ノキア、アップル、デル、ヒューレット・パッカード、ソニー・エリクソン、任天堂、モトローラなど世界の大手エレクトロニクスメーカーでは、鴻海に生産を委託しているが、中国では沿海部はもちろん、内陸部にも工場を広く展開、82万人もの中国人を雇用している。中国に進出している外資企業のなかで売上高、輸出額ともに2005年以降、7兆円前後の売り上げでトップを維持している。この富士康の労働争議が5月以降、ホンダの部品工場や日産、トヨタ系列の工場に波及し、賃上げで労使合意するなどしている。



 1978年にトウ小平氏が開始した改革開放政策によって中国は「世界の工場」にのし上がったが、その根幹は低コストの労働力を提供し、世界から生産拠点を集め、つくった製品をグローバル市場に輸出するモデルだった。その成長モデルを最も忠実かつ大規模に実現したのが富士康(鴻海)である。そのため富士康の賃金が、中国全土の工場労働者の基準モデルになっているので,今回の争議が中国の労働市場に与える影響はきわめて大きい。


中国全体の生活水準が急激に向上し、生活コストの上昇で出稼ぎの実質可処分所得が減った現在、多くの労働者は境遇に耐えられなくなっている。
中国は今後労働集約型の軽工業品などの低コストを売り物にした組み立て中心の製造業では立ち行かなくなることになるだろう。
低コストの組み立て工場を必要とする外資や中国企業は今後、ベトナムやインドネシア、ミャンマーあるいはインド、バングラデシュなど、中国よりはるかに人件費が安く、労働力も豊富な国に生産を急速に移転していくだろう。かつて日本が高度経済成長期に演じた世界の工場が、80年代に中国にシフトしたように、それは近い将来にやってくるだろう。


他方、米欧が強く求めている人民元の切り上げは、じわじわと内陸部にも容赦なく襲いかかり、それはドルや円での「賃金水準が上がる」ことを意味しており、輸出競争力を削ぐことになる。そのため胡錦濤国家主席-温家宝首相の中国指導部は、経済成長に伴って起きた米欧との貿易摩擦を回避し、人民元切り上げ圧力を押し返すために、内需拡大の道を選択しているが、労働者や農民の所得引き上げはその目的に沿ったものであり、国内の経済格差を縮める目的にも適った。また2011年からスタートする第12次5カ年計画で所得倍増を目指す方針も打ち出そうとしている。

 そのため今のところ労働争議に対する規制の動きはなく、むしろ政府は労働者の待遇改善要求を支持している。とりわけ改革・開放開始後の約30年間、中国産業や都市建設を支え、外資の誘致と加工貿易の発展に貢献してきた出稼ぎ農民(農民工)の待遇改善が、社会の安定にとって急務になっているためだ。

ちなみに農民工が主体の輸出型企業の平均賃金は、一般労働者の3分の1程度らしい。農民工が2億人を超え一大労働勢力になった今日、彼らの待遇を改善しなければ不満がいつ爆発するか分からない。彼らは既に農民ではなく、都市住民と同等の権利を主張し始め、その労働争議は中国全土に広がる気配を見せている。

そんな状況下、中国は過去の日本の急激な円の切り上げによる経済の打撃を見て、同じ轍を踏まないよう、非常にゆっくりと元の為替変動をコントロールし、急激な元の切り上げが起こらないよう国を挙げて為替操作をおこなっている。


中国に関する報告によると、中国金融資産の70%を占めているのは、官僚と僅かの利益集団だけが70%の富を所有している。国民の9割以上が残りの30%の富を分け合っている状況である。

世界で最多の人口を有する中国では、大まかに言うと7億人は食べる以外の消費能力はほとんどなく、6億人の労働者は僅かの収入で毎日十数時間、働いて大量の商品を生産している。しかし、彼らの生産した商品は欧米諸国や日本に輸出され、自分たちの消費は限られている。
この30年間の経済改革は、毎年10%以上の派手な成長を見せてきたが、一般の中国人たちはその成長の恩恵にあずかっていないのが実情である。

こうした極端の貧富の差と社会の富の分配の歪みが内需不足の根本的な原因だが、中共政権はあらゆる手段で官僚や利益集集団の利益を保護し、全体の社会利益の略奪に便宜を与えている。その結果、利益集団の富はさらに膨張する一方大半の国民は貧しくなっていき、中国経済の内需不足は慢性化していく。



ネット社会が蔓延している世界で、現在中国のネットユーザーは、中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)のデータによると、アメリカより1億5000万人多く、3億8400万人いるそうだ。世界のネットユーザー数10億の実に38%もいる計算になる。ちなみに日本は約9000万人である。

中国の指導者は方針を決める際、この層の多数意見を無視できない。 民主主義のシステムを持たない国であるからネット上の言論統制は捨てられない。自由な世論調査を許さない以上、グーグルと衝突したのも推し量れる。
今後あらゆる情報が底辺労働者に行きわたれば、ひどい格差に目覚めた彼らは欲望の渦となって搾取を続ける外資や中央政府に襲いかかり、暴動の嵐となることもこの国では考えられないことはない。

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