2010年5月11日火曜日

読売新聞の提言


衰退の縁(ふち)に立たされている日本経済の低迷に業を煮やした読売新聞は、7日付で経済再生に向けた6項目の緊急提言をぶちあげた。一部に景気の回復傾向は出てきたものの、深刻さを増す「10年デフレ」に克服のメドは立っていない状況下で、経済は低成長にあえぎ、財政は破綻(はたん)の瀬戸際にある。一刻も早く鳩山内閣は財源なきバラマキ政策を改め、成長を促す政策に転換しなければ日本は危機から脱することはできないと、編集局や論説委員会、調査研究本部などの専門記者による研究会で、外部有識者などを交え検討を重ねてきたものが以下の通りで、 政策を一新し停滞を打開せよというのが趣旨である。


.マニフェスト不況を断ち切れ(政策ミスで日本を破滅させるな )

.コンクリートも人も大事だ (デフレ脱却に公共投資は必要だ)

.雇用こそ安心の原点 (福祉は産業活性化に役立つ )

.内需と外需の二兎を追え (官民で海外需要を取り込め )

.技術で国際競争を勝ち抜け (先端分野に集中投資しよう )

.法人実効税率20%台に (新通商戦略掲げよ)

 

 骨 子

1)日本経済の停滞や企業の業績低迷は深刻な状態だ。豊かさを示す1人当たり国内総生産(GDP)は2000年の世界3位から08年は23位に後退した。スイスの国際経営調査機関IMDによると、1990年には世界トップだった国際競争力ランキングも09年は17位に沈んだ。行き詰まりの背景には、成長の源泉である企業が海外で富を稼げなくなったことがある。90年代半ばに世界市場を独占していた液晶パネルは、新興国の追い上げで市場占有率が10%程度に縮小、先行したDVDプレーヤーなどの分野でも急速に競争力を失っている。

国内では、90年代後半から10年以上も、物価が持続的に下落するデフレが先進国で唯一、続いている。企業収益は低迷し、所得や雇用の減少が止まらない。税収も上がらない中、民主党のバラマキ政策で、10年度政府当初予算は国債発行額が税収を上回るという戦後初の異常事態に陥った。財政は破綻の瀬戸際にある。こうした事態を脱するには、成長重視の政策に直ちに転換し、政策ミスで景気に水を差す「マニフェスト不況」を断ち切らなければならない。

民主党は、選挙至上主義から、有権者受けする政策に走っている。少子高齢化のため、黙っていても社会保障費は毎年1兆円ずつ増える。これを賄い、持続可能な制度に改めるには、税収の安定している消費税率の引き上げは避けられない。
鳩山首相は「消費税率凍結」を撤回し、早急に具体的な論議を開始すべきだ。税率は現在の5%から、まずは10%への引き上げを目指す必要がある。

2) 「コンクリートから人へ」という空疎なスローガンにこだわって、民主党政権は公共事業を罪悪視し、景気の悪化と地方の疲弊を放置してきた。医療・介護施設をはじめ、乗数効果が大きい社会保障関連投資などを実施し、景気悪化を防ぐよう求める。日本経済は、世界同時不況の荒波を乗り切り、ようやく景気が持ち直してきた。だが、つかの間の明るさに安心出来ない。
マクロ経済全体で需要は30兆円足りない。物価に下落圧力がかかり、デフレが慢性化している。 エコカー減税など、前政権が残した景気対策もそろそろ息切れて、今年半ば以降には成長が減速するとの見方も強い。
今こそ、景気下支えに万全を期さねばならないのに、肝心の経済政策は的はずれだ。公共事業を罪悪視した「コンクリートから人へ」は、その典型といえる。

今年度予算で景気刺激効果の高い公共事業を2割も削った。公共事業を頼みとする地方経済への打撃は大きいだろう。ここで論説していることはデフレギャップを埋める最大の効果は公共投資ということである。
交通網の高度化や学校の耐震化など、インフラ(社会基盤)投資は成長や生活の安全・安心につながる。無駄なハコ物と同一視せず、整備を進める必要がある。そのための財源確保の一策として、無利子非課税国債の活用を挙げている。相続税を減免するものの利払い負担がないため、財政を悪化させることもない。 約30兆円とされるタンス預金を吸い上げて必要な事業に使えば、一石二鳥の効果が期待出来るとしている。

3)日本社会の閉塞(へいそく)感の背後には、雇用の悪化と将来不安の高まりがある。雇用の安定なしには、生活設計が立てられず、消費も活発化しない。正規社員と非正規社員の格差是正を含む労働市場改革を進めるとともに、人手不足の医療・介護分野を成長産業に育て、雇用創出に取り組むべきだ。年金、医療を持続可能な制度にするための改革の青写真を早期に示す必要がある。

4) 「外需より内需」という考え方も改めるべきだ。新興国の需要を取り込み、成長に結びつけなければ、経済再生はありえない。特にアジアでは、世帯の可処分所得が5000~3万5000ドルの中間所得層(ボリュームゾーン)がこの20年で6倍以上に増えている。


5)日本の技術力は、環境やエネルギー分野で世界最高水準にある。昨年の事業仕分けでは、科学技術軽視の姿勢も見られたが、高い技術力はグローバル時代を生き抜く不可欠な手段である。技術革新を促す教育・人材投資を強化し、電気自動車や蓄電池などの分野で成長を目指すべきだ。ファッション、アニメなどの文化産業も戦略分野になる。原子力発電や新幹線など、海外のインフラ(社会基盤)システムの需要を狙い、主要国の受注競争が激化してきた今、公的金融や貿易保険の活用を含めた官民一体の新たな通商戦略を打ち立てることが急務だ。


6)企業の国際競争力強化には、40・69%と諸外国に比べて高すぎる法人税の実効税率を欧州諸国と同水準の30%程度か、中国の25%、韓国の24%を目指し、引き下げを検討すべきだ。法人税の実効税率 とは国税と地方税を合わせた、企業が実質的に負担する税率である。
昨今中国をはじめとした新興国企業の台頭は著しく、日本企業の勝ち残りは容易ではない。現に、先行していたはずの薄型テレビで、韓国メーカーにシェア (市場占有率)を奪われている。海外よりも高い約40%の法人税の実効税率が企業の活力を奪っている。また省エネや環境など日本が得意とし、成長が期待できる分野の活性化が重要だ。投資・研究減税などで企業の努力を後押しする必要があると結んでいる。

これらの提言に対して鳩山首相は大変いいことだと言っているが、「私どもはマニフェストを訴え、選挙に勝った。マニフェストの政策遂行は、やはり重視しなければならない」と述べ、大幅修正に慎重な姿勢をみせた。
野党をはじめ経済界からは賛同の声が相次いで上がっているが、これは民主党に対しての提言というより苦言でもある。



 

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