2015年4月3日金曜日

泥船談義


AIIB「アジアインフラ投資銀行」は、習近平が2013年10月に設立を提唱した。表向きの目的は、「アジアのインフラを整備すること」であり、アジア、中央アジア、中東など、すでに31ヵ国が参加を表明している。インド、ベトナム、フィリピンなど、中国と領土問題を抱える国々も参加している。 しかも最近「親米」であるはずの欧州諸国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ルクセンブルグが「米国の制止を無視して」参加を表明している。米国は、「もっとも緊密な同盟国」の「裏切り」に動揺した。今、世界における米国の求心力が衰退していく様相を我々は目の当たりにする。それは米国主導のブレトンウッズ体制(つまり世界銀行・IMF体制)が崩れ、世界通貨の多極化が進行していることを意味している。

2008年の「リーマンショック」によって「100年に1度の大不況」が起こり、世界的経済危機で、米国は沈んだ。当初中国は、世界的に景気が最悪だった09年、9%を超える成長を果たし、「ひとり勝ち」状態になった。同国のGDPは2010年、日本を越え世界2位に浮上。衰退する米国」「浮上する中国」というトレンドが顕著になってきた。
IMFはドル基軸を(注)SDR基軸に代えるべきだという声が高まる中で、中国はSDRバスケットをG20まで広げるべきとしている。AIIB発足は国際通貨制度改革、つまりドル基軸制の終焉が前提であり、ドルを基軸とした国際金融機関から中国を中心に後進国、新興国、先進国が参加する新通貨制度(SDR)をベースにした国際金融機関を目指している。つまりAIIBの発足は、アメリカ一国の意志で返済不能の米国債と株式を買って、見た目をごまかすために発行されるドルを世界通貨にしておくわけにはいかないという世界のコンセンサスに基づいている。


そんな中でアメリカは昨年から日本、韓国、豪州等同盟国やEU主要国にAIIBに加盟しないよう訴えていたが、英国を筆頭にドイツ、フランス、その他の先進国は加盟を決めた。日本は「(運営などへの懸念を)払拭するような答えが来ていないとして不参加であるが、日本主導のアジア開発銀行などの運営や米国との同盟関係を考慮してのものとも考えられる。

(注)SDR「特別引出権」とは、全世界共通の通貨単位を表している。1SDRは2015年平成27年1月  時点で157.0796円で毎年変動する。


通貨戦争 

さて通貨を巡る世界の動きを時系列で追ってみると、1999年1月1日、「ドル基軸通貨体制」を崩壊させる可能性のある通貨「ユーロ」が誕生した。イラクのフセイン大統領(当時)は、「石油代金として今後一切ドルは受け取らない」「今後は、ユーロで取引する」と宣言。そして、同年11月、実際に決済通貨を変えてしまった。そして米国はドル防衛のためにイラク戦争の引き金を引いた。
フランスは、志を同じくするドイツ、そしてロシア、中国を巻き込み、国連安保理でイラク戦争に反対するがしかし、米国は安保理を無視してイラク戦争を開始、フセイン政権を打倒した。
一方ロシアではは03年、「イラク問題」「ユコス問題」「グルジア・バラ革命」、04年「ウクライナ・オレンジ革命」、05年「キルギス・チューリップ革命」などで、ことごとく米国と対立。原油高の追い風に乗ってプーチンは07年6月、「ドル体制をぶち壊して、ルーブルを世界通貨にする!」と宣言した。

そして中国であるが、中国通で知られる評論家宮崎正弘氏は、「中国が目ざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)なるものは国際金融機関ではなく中国共産党の世界戦略にもとづく政治工作機関であり、あわよくば米国主導のブレトンウッズ体制(つまり世界銀行・IMF体制)に替る中国主導の金融秩序構築を模索するものであること。すなわちドル基軸体制に真っ向から挑戦し、人民元基軸体制をアジアに構築しようという壮大な野心から生まれたものであり、この銀行を設立することは中国経済のひずみを解決するための出口でもある」と言及している。
このシステムは余剰生産の鉄鋼、セメント、建材、石油副産物などの国内在庫を一斉するための吐き出し機関ともなりうるし、失業対策に悩む中国が諸外国にプロジェクトを持ちかけ、それをファイナンスすることによって大量の中国人失業者を海外へ送り出せるメリットがあるとしている。
 
昨今中国経済のバブル崩壊が話題になっているが、宮崎氏によると、その実態は虚構の中でうかがい知ることになる。世界中が幻惑されたのは、中国の外貨準備が世界一という数字のトリックだった。中国の外貨準備は3兆4830億ドル(14年末)とされるが、CIA系シンクタンクの調査ではすでに「不正に外国へ持ち出された外貨」が3兆7800億ドルである。その上中国は猛烈に海外から外貨を借りまくっていて、外貨準備増加額より外国金融機関からの借り入れ額が上回っているそうだ。周知のとおり中国経済の成長率は年々鈍化し、賃金上昇から外資が逃げ出しているという現実もあるが、なによりGDPの下支えをしているの莫大な不動産投資による地方政府の財政破たんや迫ってくるバブル崩壊、やがて来るだろう2億人近くの雇用喪失など、実際、この国の経済的繁栄は「終焉間近」という意見が多い。大紀元によると、シャドウバンクに支えられた地方債務の総額が少なくとも36兆元(約680兆円)を超えるとされている。

米国も泥船だが、中国は得体のしれない泥船であるにもかかわらず、上述した多くの国がこの船に乗り移っているさまは私には奇妙に思えてならないのだが。

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