江ノ島沖 雄のカワハギ |
10月から11月にかけて例年だとフグ釣りに興じるところであるが、今年はフグがあまり釣れていない。去年は特にアカメはよく釣れ良すぎたぐらいで、今年はまだ行っていない。一方で今年の東京湾は夏場にかけてマゴチがよく釣れ、何回かいい思いをした。今年に入り穴子やフグなどがさっぱりで、震災以来東京湾の地形も変わったのかいつもと違うような気がする。
そんなわけで今年は相模湾でカワハギ釣りを2回ほどやった。。
カワハギは内向的な釣りで、青物と違って餌を蒔いてドカっと釣る陽気な釣りではなく、普通に釣っていても釣れる魚ではない。常に魚との駆け引きが要求される釣りで、釣り方に工夫がないと餌ばかり掠め取られ、餌泥棒に悩ませられる。
その点フグはも餌取りがうまいが引っ掛けて釣るカットウ釣りが主流となるのでカワハギほどストレスはたまらないものだ。しかしカワハギは小さな針に付けた餌に食わせて釣るので一筋縄ではいかない。学習能力も高く、釣り船の多い海域ではすれっからしのカワハギとの知恵比べに神経をすり減らし気の抜けない釣りである。これが普通の魚やまずい魚であれば、これほど夢中になれず竿を置くところであるが、ひたすら極上の白身と海のフォアグラたる絶品の肝を求めて釣り人は懲りずにやって来るのだ。言うまでもなく釣り立て新鮮なカワハギが食えるのは釣り人の特権である。
さて釣りにも時の運(釣りの神の微笑み)が左右することが過去に時々あった。釣りの神様といえば恵比寿様である。
縁起のよい福の神様を7人集めて絵にしたのが、ご存じ「七福神」。その中で竿と鯛を持って笑っている恰幅のよい神様が、七人の中では唯一国産とされている神様、恵比寿(ゑびす)様である。。福々しい笑い顔をえびす顔というぐらいで、打ち出の小槌を持った大黒様と並んで人気があるようだ。他の6名の神様は中国やインドからの拝借であり、日本人の外来文化の吸収力の貪欲さと、宗教心の懐の深さはすべて古来からの八百万の神々を敬ってきた国民性に由来する。
すなわち大黒様は古代インドのシヴァ神、弁財天も同じくサラスバティーという河の神様、毘沙門天はヒンドゥーのヤシャ王クヴェーラ、寿老人は中国の思想家老子、布袋尊は後梁時代の禅僧契此(かいし)、福禄寿は中国伝説上の道士とされている。恵比寿様は、上方ではもっと気軽に「えべっさん」と呼ばれており、庶民には一番もてる神様である。 さて、庶民に人気のある恵比寿様のルーツを探ってみると、恵比寿さまは右手に釣竿、左手に鯛を抱えているように、元々は海の神様、豊漁の神さまだった。
ところが恵比寿様のルーツには諸説があり、神道では、恵比寿さまはイザナギノミコトとイザナミノミコト(日本国を作ったカップルの神様)の第三子蛭子尊(ひるこのみこと)といわれている。古事記日本書紀に出てくる蛭子という漢字にエビスが当てられているのが、その根拠だそうだ。恵比寿様はなんと3歳まで足が立たず、それを理由に船に乗せて捨てられ、漂着先が神戸の西宮浜)、おまけに福耳のくせに難聴という苦労人で、顔で笑って心で泣く釣り師には本当によき模範となる神様である。
もう一つの説は、大国主命(おおくにぬしのみこと)の第一皇子事代主命(ことしろぬしのみこと)と云う説である。神話に出てくる出雲の国譲りをした神様で有名で、この大事なときに美保ヶ関に釣りに行ったという釣り馬鹿で、それが後生釣竿を持ち鯛を抱えるイメージにつながったという話もある。
三説とも、いわゆる出雲の国譲りが神話という形を取っていても、実際は大和朝廷と出雲政権との権力闘争を暗示した記述であるということは、大方の学者が認めているところである。大臣であるにもかかわらず、政務を放り出し、釣り三昧に明け暮れた事代主命(ことしろぬしのみこと)が、実在のモデルなら釣りバカ日誌を地で行っている話で、歴史を遡る逸話は想像力を掻き立てられるものがある。
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