出稼ぎの農民工 |
ところが中国では不動産バブルを除けば一般消費財は過度のインフレにはなっていない。中国から輸入されるそれらも、値上がりはしていない。今わが国で隆盛を極めている100円ショップも健在である。
最近読んだ「通貨燃ゆ」の著者谷口智彦氏が中国のインフレ抑制のカラクリを(2章人民元をあえて経済から見ない)から指摘している。その仕組みとは、
中国では2種類の人間がいる。都市戸籍を持つものと、農村戸籍しか持たない者との2極分化が顕在化しており、前者が一等市民なら後者は2等市民である。出身によって明確な差別があることは、農村戸籍のものが都市へ出た場合に生じる次のような差別実態が証明している。これは中国の成長の裏に隠された影の部分でもあり、世界最大の人事部と言われる所以である。
◎農村戸籍しか持たないものは
1.最低賃金制の適用対象にならない。
2.企業の採用面接を受けられない。
3.子供を公立学校へ通わせる際、高い学費を払わされる。
一般的に経済が伸びると、農村人口は都市へ移動し人口比が変化するものだが、中国はこの農村戸籍制度によって農民を農地に閉じ込めることによって都市化率が極めて低く農村の貧困率も高い。農村出身者は、地元政府機関の斡旋で集団として都市に入り、多くは機関監視の下で一定期間下層労働に従事する。その数約1億4千万人。期間が終わると次の農村出身者が新たに入り、そして賃金は再び最低線からのスタートとなる。この労働循環のためコストインフレを回避している。このため実質為替レートが上がらないため、人民元に対する上昇圧力が顕在化しないのである。
一方で都市戸籍を与えることを餌に数々のインフラ建設で強引な立ち退きを迫り、道路であれ空港であれ、あっという間に安いコストで作ってしまう。もちろん供給過剰の高級住宅も例外ではない。都市部を中心に入居者の埋まらないまま値下がりにさらされている物件は山ほどある。不動産バブルもいよいよ本格化してきた様相を見せている。(谷口)
中国の年中行事 暴動 |
毎年実質 GDP は 10%前後成長しているのに対して、出稼ぎ労働者の賃金はほとんど上がっていない。それは輸出企業が価格競争力を強化するために、人件費を不当に抑制しているからである。このことが長く続くと、深刻な社会問題に発展する可能性があると中国の経済学者は警告している。
中国の通貨 人民元 |
近年、中国経済の高成長を背景に、国際社会では、とりわけアメリカ、EUを中心に人民元為替レートの切り上げを求める動きが盛んになっている。それに対し、中国政府首脳は「外国の圧力に屈して人民元の切り上げは実施しない」と繰り返して強調し、強気の姿勢を崩していない。
これは中国政府のなかで、人民元の為替調整について 3 つ原則があるといわれている。すなわち、「自主性」と「可控性」と「漸進性」である。自主性というのは外国政府の圧力に屈せず、自主的に為替調整を実施する。また可控性とは完全に自由化せず、コントロールを続けていく。最後に、漸進性は短期的に大幅な切り上げを実施せず、緩やかに調整していくということのようだ。要するに、為替調整による中国経済へのショックを最小限に抑えるということのようだ。
少なくとも中国はかつて日本がプラザ合意で大幅な円の切り上げを経て,失われた20年に至った経過をつぶさに見てきたことが教訓になっているからだろう。そのためドルからの圧力緩衝と、固定相場制を維持するため元高にならないようにドル買いを進め、それが米国債の保有額の増加につながっている。外圧でやがて元が変動相場制に移行したら、中国は日本と同じ道をたどるだろう。
最近、円高を食い止めるために、わが国の日銀が為替介入(円売りドル買い)で捨てた金が昨年末で約9兆円。これが米国債に変わり、喜んでいるのはアメリカだけだ。アメリカがドル安を志向している限り、円高は止まらない。
日本の自動車メーカーでは1円の円高で、トヨタは400億の損出が生じると言われていたが、今も過酷な円高による国内の輸出産業は大幅な赤字決算に見舞われ大打撃を被って雇用を喪失している。こうしたことも元の為替相場が低い水準になっている事の影響も少なからずある。唯一円だけが返り討ちにあって深刻な状況にさらされているなかで、国は小手先の為替介入をいつまで続けるのだろうか?産業の空洞化はヒタヒタと進行している。
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