2010年8月11日水曜日

核無き世界は幻影か?


原爆被爆から65年たち、広島では8月6日に平和記念式典がおこなわれ、ルース駐日大使や潘基文国連事務総長をはじめ米英仏から初めて代表が出席することになった。
その背景にはオバマ大統領の核無き世界の構築の過程で、核戦争当事国として世界に向けての最大のプロパガンダになる今回の式典に臨む意図が見える。


オバマ大統領の「核なき世界」とは何か。今後アメリカはみずからと国連による政治圧力で小国に核廃絶を強行し次に寡占国にまで廃絶を求めながら、アメリカが最後の核廃絶国になることを目指す。これがアメリカの新たな世界核支配構想であるが、核に代わる強力な国家間の緩衝材がない以上、縮小はあっても廃絶、ゼロにはならないだろう。それが人間のどうしようもない業(カルマ)と言うものだ。


安保理の核廃絶決議も核不拡散条約も対象としているのは北朝鮮、イラン等核寡占国(米、ソ、英、仏、中:安保理常任理事国)以外の国々であり、目的としているのは核寡占国の寡占維持に他ならない。このことは最近の核技術の簡素化で今や核兵器がアルカイダ等テロリストの手に渡る可能性
が出てきたことを示唆するものだ。核兵器がテロリストの手にまで拡散されるようになればアメリカを
筆頭に核寡占国の核抑止力が効かなくなる。ならばむしろ世界から核をなくしてしまえばいいではないかという理論が出るのも当然のことである。まさに最近のアメリカ映画を地で行っているような状況である。




広島長崎に原爆が落ちた年は年末までに、両市合わせて民間人20万人以上が犠牲になった。戦争はどの時代でも国家の違法性がつきものであるが、米国の犯した違法性は結果の甚大さからみると特出している。すなわち国際法(ハーグ陸戦協定)では非戦闘員(民間人)の殺戮禁止が謳ってあるにもかかわらずである。
イラクや、アフガンでの間違って攻撃された民間人のレベルではない。恐ろしいことに米国の右派をはじめ多くの米国民が原爆投下は正しかったと認識していることである。右派の突き上げが激しい米国議会の圧力もあって、駐日大使はどうやら長崎までは足を運べないらしい。


戦後、中華人民共和国を意識した核抑止力として日本返還前の沖縄に配備されていたものに、国立アメリカ空軍博物館に展示されているCGM-13B戦術地対地巡航ミサイルがある。もちろんこれに核弾頭装着は可能である。(右写真)

沖縄本土復帰36年の今年、「核抜き・本土並み」での返還の約束の下、返還前に沖縄に貯蔵・配備された核兵器はすべて撤去され、返還後に米国政府が沖縄に核兵器を持ち込む場合には日本政府と事前に協議することが必要となった。しかし、今日ではよく知られた話であるが、この「核抜き・本土並み」返還には裏があった。

「密約は返還のための代償だ」として佐藤首相を説得し、密約の草案を作成したのが、首相の密使、若泉敬・京都産業大学教授だった。若泉は、1994年に著作『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』でその秘密交渉を暴露し、2年後に亡くなった。
沖縄返還交渉に佐藤の密使として関与した若泉によれば、有事の際に事前協議なしに米国が沖縄に核兵器を再び持ち込むことに日本政府が同意する旨、佐藤とニクソンが密約を交わしていたという。


しかしその後、さらに時代が進むと、戦術核の必要性も低下し、わざわざ戦術的な目的のために小さい核兵器を使わなくても、効果的に敵軍を止められる戦法や兵器が開発された。さらに冷戦が終わり、核でないと止められないような大軍が攻めてくる恐れが劇的に減ったことで、この流れは強まり、かつて韓国に配備されていた戦術核は、韓国政府の反対にも関わらず撤去され、またヨーロッパに配備された戦術核も次々に撤去・削減が進んでいる。

戦略核として陸上では大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、その命中精度がぐっと上がり潜水艦に搭載して海中深くに隠しておける潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も同じレベルにあると言われている。そのような最新兵器(戦略核)が存在する中で、戦術核を前方配備する必要性も低下したこともあって上記のような状況になっている。

オバマも佐藤首相もノーベル平和賞を授与された国家元首である。佐藤は非核三原則やアジアの平和への貢献を理由として、オバマは核兵器無き世界の構築を目指していることを評価され、道半ばにして受賞している。(まだ始まったばかりであるが、世界の期待が大きいことを物語っている。)

今一度矛盾を秘めた平和の意味を考えてみたい。



 

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