2009年4月24日金曜日

米国覇権の終わりに来るもの



ロシアの国土は日本の45倍あり、米国の2倍もある。その殆どがシベリアのツンドラとしても、途方もなく広い。およそ一国の政治体制で仕切っていくのはウオッカにやられた凄腕エリツインも骨が折れたに違いない。彼の晩年は20世紀最後の12月に腹心のプーチンに権力の移譲がおこなわれ、21世紀プーチンの時代は始まった。


ロシアは100民族以上ひしめきあってる多民族国家で、オーストラリアやアメリカのように移民で多民族国家になったのではなく、土着だけで100民族いるというからとんでもない国である。圧倒的多数はスラブ系のロシア民族だとしても、辺境や周辺には聞いたことないような民族や文化が沢山ある。
ゴルバチョフからエリツィンの改革は、共産主義国家ロシアに大いなる混乱をもたらした。恐怖のソ連共産党支配というタガが外れ、ペレストロイカ[改革]の名のもと経済もメチャクチャになった。.当時のロシアの政治状況は、エリツィンらの市場経済移行派、共産主義に戻ろうという復古派、それに加えてソ連以前の古き良きロシアに戻ろうという民族派の3つが暗闘を繰り返していて、西側としては共産主義社会に戻らせないためにもエリツィンに頑張ってどうにかして社会主義に訣別して、市場経済に移行してもらいたい志向が働きIMFや世界銀行もどんどんロシアに融資した。




ソ連は建国以来最大の経済危機を迎えた1985年、ゴルバチョフがソ連の最高権力者、共産党の書記長の地位につきペレストロイカ[改革]を遂行し、共産党のみならず、国家体制さえも改革するような渦の中に巻き込まれ、やがて保守派のクーデターをおさえた強硬改革派のエリツィンの登場を呼んだ。エリツィン時代のロシアは「西欧の資本主義システム」を無防備に輸入した結果、国家の富を横領して短期間に肥え太った新興財閥オルガリヒやマフィアが生まれた。
国家の財政は破たん、庶民は「餓死寸前」まで追い込まれ治安は乱れた。軍や治安機構も崩壊したエリツィン時代のロシアで市場経済移行の中、ロシアの新興財閥オルガリヒの勢力は、金融業のみならず旧政府系の各産業、さらにはTV局や新聞などのメディアを押さえていった。自由に世論操作出来るようになったオルガリヒは共産主義に後戻りしないようエリツインを後押し市場経済に突き進むが、ロシア経済は混迷を極め、アジアの通貨危機が飛び火した1998年8月には、ついに資金繰りに窮し、ロシア国債の支払いを90日延期するというモラトリアム宣言をした。事実上のデフォルト(債務不履行)にまで陥り、この時点でロシアは国家破産状態になった。






ソ連崩壊によってロシアは政治・経済・軍事・治安・国民生活など全分野で崩壊した。エリツィン時代の「失われた10年」を経たロシアにおいては、独裁者が強権政治を担わざるを得ない必然性があった。プーチンはロシアの特殊事情が生んだ「時代の申し子」である。プーチンが思い描くロシア像は「威厳に満ちた強いロシア」である。当面の世界戦略は「米国の一極支配は認めない。米ドルを基軸通貨の地位から引きずり落とす」ことである。この世界戦略にそって、米国への対決姿勢を貫徹している。
姦雄とは単なる英雄でもただの悪党でもない。権謀術数にたけ、善人をあざむき、天下に覇を唱える強烈な個性の持ち主のことである。三国志に出てくる曹操は当代一の戦略家であり、最近見た映画レッドクリフにも登場していてプーチンにかぶるものがある。

世界は今、経済だけでなく政治や軍事も大変動の時代に突入した。世界の政治地図は時々刻々変動している。米国は今や軍事力だけで覇権を握っているに過ぎない体力の弱った国家である。超大国であった時代の米国は「中国の反米行動」を容認することができた。だが今や、中国は外貨準備高世界第1位、経済力は世界第3位、軍事費は世界第2位で、名実ともに米国覇権に挑戦し、米国覇権を脅かす巨大なモンスターに成長した。




周知のように欧米日5か国で始まったサミットは、世界経済に占める欧米列強の比重が低下するに伴い、約10年前から重点をG20に移すようになった。G20は、アジア・豪州地域が8か国、アメリカ南北大陸が5か国、ヨーロッパ地域がロシアとEUを加え6か国・地域、アフリカ大陸が1か国である。世界経済の重心が大西洋からアジアに移動したことが反映されている。「文明の衝突」の著者ハンチントンがいう「西洋の没落・アジアの台頭」がサミット参加国でも実現した。
一方、米国とEUの主要国は北大西洋条約機構(NATO)という軍事同盟の同盟国であり経済関係も濃密である。EU特に独・仏・伊とロシアは経済的な相互依存関係にある。ロシアはEUとの貿易で稼ぎ、EUもロシアのエネルギー資源への依存度が高い。世界の準基軸通貨ユーロを発足させ米ドルの基軸通貨体制にクサビを打ちこんだ独・仏は、いよいよ政治的分野においても主導権を握る時代になったとの認識でいる。




昨今のロシアにとっての原理原則は「米国の一極支配を許さない」という一点に集約できる。そのため原油取引をルーブル建てにしたり、イランやベネズエラなどの反米国家に対する最新兵器の売却を推進している。ロシアは世界最大級の天然ガスの資源国でサウジに次いで世界2位の原油生産国である。現在エネルギー資源大国であるから「資源価格高騰」で潤っている。EUのエネルギー消費の約30%を供給しているといわれるが、東欧諸国においてはエネルギー資源のほとんどをロシアの原油や天然ガスに依存している国も多い。これら諸国にとって、ロシアからのエネルギー資源の供給が停止された場合、国家経済が破たんする。ロシアはとりわけ東欧諸国の経済に対する主導権を握っている。またロシアの動向によっては国際的な原油価格に影響が出る可能性がある。
 ロシアはNATO加盟を掲げる親欧米政権を崩壊させ、ロシアを迂回する石油と天然ガスのパイプラインが経由するグルジアを旧ソ連時代のように支配下におく思惑がある。そのためグルジア問題は、キューバ危機以来45年ぶりに米国とロシアが直接対決する構造となった。衰退する覇権国家米国に勝負を挑む新興大国ロシアという図式だ。「冷戦時代」というのは、米ソが「共倒れを回避しつつ、勢力圏を拡大又は守もるための局地戦を行う」構図であったが、これは新たな経済冷戦のはじまりでもある。プーチンのもと大統領のメトベージェフは影が薄い。優秀な法律学者の彼は米国の絡んだグルジア問題であっさり停戦合意をしたのでプーチン(皇帝)の怒りを買った。ロシアの政局はプーチンの隠然たる力で支えられている。

フランスの歴史学者エマニュエル・トッドの言葉「世界は米国なしでも生きていけるが、米国は世界なしには生きていけない」と言う辛辣な批判は、米国の属国である我が国の政治家も肝に銘じなければならない言葉でもあろう。

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