2016年1月7日木曜日

アートな話「アートの眼」

「眼」エッシャー  1946


 
脳科学者の話では、人間の大脳皮質の3分の1の領域が「見る」機能に充てられているのだそうだ。勉学や仕事や趣味や人との付き合いなどで日々、頭をひねり、心を砕き、一喜一憂することが山のようにある中で、物を見るだけのために脳の半分近くを使っていることになり、このことは、見るということは決して単純でも簡単でもなく、とてつもなく膨大な情報処理を必要としていることを裏付けしている。見ること,すなわち我々を取り巻く世界の認知の大半が視覚に依存している。自然環境としての外部世界はもとより、人間社会における情報のすべてが文字・図形・静止画 像・動画像という形式で視覚に訴え、働きかける。また人間特有のイメージ喚起能力も眼前にないものを頭の中にイメージ(視覚化)することであり、過去に蓄積された視覚像を喚起して頭の中の「視覚像」が世界の認知に果たす役割は非常に大きい。
また見たいもの見たくないものによって、視線の集中度合いが異なり、視線はモノの特徴点を随時移動しながら形をとらえていく。いみじくもかつてサルトルが「想像力の問題」のなかで、事物を見ることの眼差しに対する考察において、見る行為を対象物を所有する概念に置き換えたことに少なからず衝撃を覚えたことを思い出す。

頭部を固定し、1点を凝視した状態で見える範囲を視野といわれているが、視野計による調査では、「人」の視野は左右約200度・上下約140度といわれ、 この場合左右については大差ありまりないが、上下に関しては上60度・下80度と下の方が 広く、日常生活ではさらに下の方が優位になるようだ。このことは、我々の身の回りの物は大部分が眼の高さより下にあって、とりあえず注意を払うのは目の高さから足元ということになる。

一方で厳しい自然界で生き残っている動物たちは、人間とは違った視界を持つことで有利に生存競争を戦っている。大半の動物は眼が顔面の両側にあって、各々の視野が独立するかたちでほぼ360度の視野をもつのに対 し、人間の場合は両眼とも前方を向いていて、左右の眼の視野の共通領域が広くなっている。つまり両眼での全体の視野は狭いが、両眼視による奥行き知覚 が有利になるという特徴をもっている。
このことは、「人」以外の動物が障害物や外敵といった自然環境に関する情報を重視するのに対し、「人」はそうした情報よりも相手の表情やしぐさ、あるいは 文字や画像情報といった同種のもの同士でのコミュニケーションに関わる情報を重視することを物語っている。

さてこの奥行き知覚であるが、目の構造上本来2次元である網膜像をもとに、我々は奥行きを含む3次元の世界を認知している。
この奥行きを知る手がかりには絵画的要因がある。 絵画的要因とは、大きさ・上下・重なり・きめの勾配・色調・コントラスト・明暗・影のできかたなどで、配置や描きかたによって奥行きを知る手がかりが得ら れるというものだ。 そのほかに視点が移動中の車窓などで見られる風景で、近くの風景と遠くの風景とでは移動のスピードに差があり、この運動視差による奥行き知覚もある。いずれも視覚に潜むアートな話で今年も始まりそうだ。

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