2012年6月1日金曜日

アートな話「ミッドナイト イン パり」

ミッドナイト イン パリ
とある映画館でひさしぶりに面白い映画を見た。アメリカの売れっ子の監督:ウッディ・アレンの2011年度制作のアカデミー賞脚本賞作品である。
主人公の映画脚本家ギルは、婚約者イネズの金満家の父親の出張に便乗して憧れのパリにやってきた。アメリカで脚本家として成功していたギルだが,現在は本格的な作家を目指して小説を執筆中だ。

パリへ来ても、街を楽しむというよりショッピングで頭いっぱいのイネズの自己中心的な振る舞いに翻弄されながらも、彼女の性的な魅力に負けお付き合いをしているギルではあるが、イネズの昔の知り合いとパリで出会ってからは、自分たちの時間を蔑ろにし、連中と付き合わされたギルは夜も深けた頃、彼女と別行動を取ることになった。

0時になるとやってくる古いプジョー
酒に酔って道に迷い途方に暮れたギルの耳に0時を知らせる鐘が町に響いた時、階段の下でたたずんでいると、どこからともなく現れた旧式のプジョーが目の前で停車する。
車中の1920年代風の格好をした男女がギルを誘う。車中での酒盛りに心を許し、そして向かったパーティには、コール・ポーターがピアノを弾き、F・スコット・フィッツジェラルド(米国の作家)と妻ゼルダがいた。そのパーティは詩人のジャン・コクトーのパーティだった。
そこでギルは、彼が愛して止まない1920年代のエコール・ド・パリの真っ只中に来ていたことに気づく。ここで観客も心躍る音楽に乗ってタイムスリップさせられる。
ギル A.ヘミングウェイ G.スタイン
 その後、フィッツジェラルド夫妻、ポーター夫妻と行ったクラブでは、黒いヴィーナスの異名を持つジャズシンガーのジョセフィン・ベイカーもいた。その後に、フィッツジェラルド夫妻と飲みに入ったバーでは、アーネスト・ヘミングウェイと出会う。ヘミングウェイに自分の小説を読んでくれないかともちかけたギルだったが、ヘミングウェイに「自分は読みたくないが、代わりに美術収集家で批評家のガートルード・スタインを紹介しよう」と言われ、舞い上がる。1920年代のパリは世界中の芸術家のたまり場でもあり、画家達はエコール・ド・パリとして、モンマルトル近辺にたむろしていた。ここにタイムスリップしたこのストーリーは、軽快なギターとバイオリンのBGMでパリの古き良き時代を彷彿とさせる演出だ。この音楽は主人公が憧れの芸術家達に会えて心躍る様を見事に捉えている。

アドリアナと歩くギル

次の夜、イネズを一緒に誘うが、真夜中になる前にイネズは「疲れた」と帰ってしまう。彼女が帰るやいなや、夜中の12時の鐘が鳴りギルは階段の下で連中を待っていた。、例のBGMが流れるとまた古いプジョーが現れた。車にはヘミングウェイが乗っていた。彼と一緒にスタインの家へ行くと、今度はそこにパブロ・ピカソとその愛人、アドリアナがいた。スタインはピカソとピカソの描いたアドリアナの肖像画について論議をかわしていた。そこで初めてアドリアナに会ったギルは、一目惚れしてしまう。彼女はかつてモジリアニの恋人だった。


サルヴァトール ダリ
こうしてギルの奇妙な日常が続く、 夜な夜な現代と1920年代のサロンを行き来しながら、婚約者イネスとの関係とアドリアナに魅かれる自分に悩むギル。しかし、シュルレアリストである、サルバドール・ダリ(これは戦場のピアニストを演じた俳優)、と写真家のマン・レイからは、「それはごく自然なことだ」と言われてしまう。いずれもなんとなくそれらしい風貌の俳優が各々の芸術家の役をこなして面白い。特に若き日のピカソはそっくりさんの俳優で、髭面小男のロートレックまで出てきた日には笑える。そしてギルはスタインのアドバイスによって小説を手直しして、完成に近づけていく。

やがてアドリアナは、さらに一昔前の19世紀末から20世紀初頭のベル・エポックに憧れ、彼はおいてきぼりをくらう。価値観と波長の違う婚約者との決別を決意し、パリで暮らすことを決めたギルは今のパリの街で(コール・ポーターのレコードがかかっていたアンティークショップで知り合った)ガブリエルと偶然出会い、そして雨の中彼女と未来に向けて歩み出し映画は終わる。

ラパンアジル
 私にとってパリは26年前の旅先で寄った場所でもあり、映画にラパンアジルが出てこなかったのが残念だったが、パリの情景を思い出しながら、モンマルトル当たりの風景や、数多くの観光スポットが映画の画面から走馬灯のように現れた。あの時は画家達のたまり場だったラパンアジルにツアー仲間と繰り出し、店の前の小路で犬のふんを思い切っり踏んだことや、店でワインを飲んだりしたリしたことなど、また一人の時はあのヘンリーミラーが、娼婦と暮らした小説「クリーシーの静かな日々」に出てくるクリーシー広場の牡蠣料理店で生牡蠣を12ピース食べ、南仏の磯の香りを味わったことなどが頭をよぎり、しばしパリの街とそれを彩る音楽に浸った。

夜な夜なタイムスリップを繰り返しながら、イリュージョンの世界に入っていく主人公は、過去がどんなに素晴らしくても、自分は現在を生きるしかないということに気付き、新しい恋人と歩み出す。映画館でなければ酒を飲みながら観て、トリップしたくなるようなひさしぶりに楽しい映画だった。

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