2011年11月9日水曜日

経済の潮流が変わった


アメリカは基軸通貨ドルに支えられ繁栄を謳歌してきたが、1970年代以降第3次産業という脱工業化社会を築いていった。これはサービス業・金融産業・知的所有権関連などだが、その後IT産業の台頭から、一段と加速されていった。そして金融資本が支配する金融産業に傾倒してゆき、製造品は外国(日本や中国)の安いものを購入し、金融産業を基軸に国家の経済政策を進めてきた。

その間アメリカ相手に高度成長を遂げた国が日本であり、最近の中国である。しかしアメリカが自ら作り上げた虚構の金融商品はサブプライムローンの破綻によって引き起こされた甚大な傷口が癒されぬまま、国内の失業率の悪化や、米国債のディフォルトが取り沙汰されるようなった。
そのため、再選に望むオバマは雇用の創出のため、貿易輸入国から輸出国へと変換を図った。その結果輸出に有利なドル安を容認、今日の円高の大きな障壁になっている。リーマンショック後、米国民は借金できなくなり、米国は世界から大量に輸入できる体質でなくなった。

オバマがTPP環太平洋戦略的経済連携協定に力を入れるのは、米国製品を日本市場で売りやすくして、米国の輸出産業を復活させ、自国のあらゆる産業分野の利益と雇用を、協定を結んだ国から吸い上げる方程式で仕掛けている。再選に向けた自らの政治的得点を得るためオバマは、日本などアジア諸国に対し、対米輸出で経済発展を続けることにブレーキと警告を発している。衰退に向かっている米国は、日本を含む世界にとって、従来のように旺盛に消費してくれる経済覇権国でなく、逆に、政治と軍事の力で世界から利益をむしりとる存在になってきた。

問題のTPPは表向きは関税の自由化と標榜しているが、そんなものは氷山の一角で、秘密裏にされている非公開の縛り、すなわち米国にとって国益になる制度をクモの巣のように張り巡らしている 。
その政策の柱は、農畜産物の輸出に限らずありとあらゆる産業を条約を締結した国に送り込み、自国に有利な制度をすべて適用させることに尽きる。

相手国との紛争解決ではアメリカ側の第三者機関の調停により、多大な国家賠償金を米国企業に支払っているのがカナダをはじめメキシコなどので、提訴した米国企業の都合のいいように再審無しの判決が下される。これが条項の中の(ISD=投資家対国家間の紛争)という投資家保護条約の代物である。このような不平等協定に臨んでわが国政府に果たして勝算があり、国益が守れるのだろうか?

韓国との二国間協定(FTA)も韓国にとって得るものがなくアメリカにとって非常に都合のいい条約を締結させられたと、韓国民も今になって地団駄を踏んでいる。TPPも同じようなもので、手練手管を駆使し標的となった国にアメリカンスタンダードを押し付け、市場をこじ開けようというもので、ノウと言えない我が国の現政権がテーブルについて交渉しても結果は見えてくる。

何より政府がTPPについて国民に仔細な情報を流さずに、交渉を始めることや、闇雲に対米盲従を国民に強要する姿勢は国家主権を失った国の姿でもある。政府や外務省、マスコミなどがTPP参加のプロパガンダを流し続けているが、今やTPPは国を二分する論争に広がっている。

世界的にはブロック化による経済圏の対立が激化し、第二次大戦前のような様相だ。通貨切り下げ競争が激化して保護主義が台頭し、最終的に世界的規模の植民地再分割、市場争奪戦を繰り広げたのが第二次大戦だった。アメリカを中心とする日米の環太平洋、すなわち日米枢軸同盟、それと中露、EUの対立があらわれている。

ユーロ体制の崩壊の予兆

リーマン・ショックから3年がたったなかで、ギリシャを中心にした「欧州ソブリン(国家財政)危機」が深刻な様相を見せている。今年8月にはアメリカが債務上限をめぐってデフォルト(債務不履行)騒ぎをやるなど、いまや資本主義各国がどこも国家破綻の危機に瀕し、あるいは道連れになるまいと必死な姿を露呈している。サブプライムローン破綻から翌年のリーマン・ショックを経て、その後は公的資金注入によって、金融システムの破局をごまかしてきた。ところがアメリカを中心とする金融機関が息を吹き返したかわりに、今度はツケを肩代わりした各国の国家財政がパンク。国債を引き受けている金融機関も危機になっている。そして米日欧に中国、ロシアなどの争奪が激化し、世界各国で共通して緊縮財政など人民に犠牲を強いて矛盾が先鋭化している。
もともとギリシャはユーロー加盟の基準から大きく外れているにもかかわらず、ゴールドマンサックス(アメリカの金融グループであり、世界最大級の投資銀行)などによる悪知恵で財政の粉飾とごまかしによって同盟に入ったわけだが,裏を返せばアメリカがドルからの自由を求めて作られたユーロに時限爆弾を仕掛けたようなものかもしれない。
今起きているギリシャ危機はギリシャ国債の信用力低下の現象が、スペインやイタリアに波及する可能性が高い。特にイタリアは日本、米国に次ぐ世界第三の国債発行国であり、仮にイタリア国債の価格が一段と下落するようだと、その影響は大きい。

ギリシャ情勢悪化による支援打ち切り、ユーロ離脱などの事態に至ると、株価大幅下落、金融機関の資金調達困難化など、各国金融市場の機能が低下する第2のリーマンショックのような深刻な金融危機に一気に進行する可能性が否定できない。EU発の金融危機が深刻化すると、日本にも大きな影響を与える可能性がある。日本の銀行や生損保の大手金融九社もギリシャやポルトガルなど南欧の重債務五カ国向けの投融資残高が約2兆8700億円に達することが明らかになっている。

世界市場では投資信託やREIT(不動産投資信託)も収縮し、金や石油といった商品市場からもマネーが引き始め、ファンドも業績悪化の一途をたどっている。世界の投資マネーはヘッジファンドからも資金を引きあげ始める様相となった。そして向かった先が円買いで、超円高現象が起きている。世界的に見て通貨が上昇しているのは日本だけで、1000兆円近い債務を抱えていながら、しかも財政支出をともなう東日本大震災に見舞われているなかでも、「他よりはリスクが少ない」「安全資産」などといって投機マネーが張り付いている。
この最大の要因はアメリカで、FRB(米連邦準備制度理事会)が途方もなくドルを刷り散らして市場に注入し、公定歩合を段階的に引き下げてきたこと、供給量が増えるおかげでドルの価値が下がり、ドル不信、あるいはユーロ不信とあいまって日本の円高につながっている。日本も金融緩和して円を刷れば為替介入などの小手先の政策を労しなくても円高は止まり、景気浮揚になるのに、日銀の白川総裁はかたくなにそれをしない。

世界各国は輸出産業などにテコ入れして経済のカンフル剤にしたい、内需を喚起したい願望から意図的に自国通貨の切り下げ合戦をしてきた。ヨーロッパ各国では第一次大戦後の通貨切下げ競争が結局は第二次大戦を導いたという歴史認識の共有がEU統合の出発点であった。
リーマン・ショック後は、天文学的な財政出動によってしのいだが、今度はより深刻な国家破産、破局の影がちらついてきた。金融独占資本が引き起こした大恐慌・大不況で経済は回らず、犠牲転嫁された人民はどの国でも生きていくのが困難である。

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