2014年7月17日木曜日

アートな話「伝統産業」

伝統工芸品マーク

右は、ご存知の経済産業大臣が指定する伝統的工芸品マークであり、鎌倉彫もこの指定を受けている。国は「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」1974年公布に基づき、全国の伝統工芸品210品目を指定しており、経済産業大臣が伝統的工芸品を指定する要件は、以下の5項目になっている。

1.主として日常生活の用に供されるものであること。
2.製造過程の主要部分が手工業的であること。
3.伝統的技術または技法によって製造されるものであること。
4 伝統的に使用されてきた原材料であること。
5.一定の地域で産地を形成していること。

さて、戦後高度経済成長を経て、伝統産業も経済成長とともに成長してきたが、バブルの崩壊から長期的な経済不況が始まり、現在まで一定の経済回復はあるものの、本格的な回復はしていない現況がある。このことは経済社会において、単なる経済不況に留まらないトレンド、すなわち経済のグローバル化、生活者のニーズの変化、新たな流通の仕組み、さらにITの発達などによって、経済の構造変化が進んでいることが、複合的にこの業界に影を落としている。
このような時代の流れのなかで、日本人の暮らしの価値観、精神性といったものが忘れ去られていきつつある今日において、「和」の暮らし、考え方、センスを今一度見直すためには、その担い手である伝統産業の持つ意味は大きい。
しかし、高度成長期が終わったころから、全国の伝統産業の規模の拡大が止まり、今日まで縮小の一途をたどっている。業種によっては絶滅危惧種のような地方の地場産業もあるが、後継者も育たない状況は大なり小なり各業界が抱えている問題である。

私が仕事をしている鎌倉彫業界は、お稽古産業という特殊な形態が鎌倉彫総生産の80%以上を占めていたため、急激な需要の落ち込みはなかったものの、年々会員数の減少化は進み、会員の高齢化なども影響し最盛期の半数を大幅に下回り、下げ止まりが見えない状況である。一方で伝統産業の宿命でもある生産性の低さと高い技術力とは裏腹に、大量生産された紛い物(市場で鎌倉彫風と称して流通している安価な臭い製品)も製造業としての鎌倉彫のイメージを悪くしている。良い作品を見て消費者が眼力を肥やすのは望ましいことだが、生産者も消費者のニーズに答えるよう、常に創造力を磨く努力は怠ってはいけないと思う。

ここにきて生産基盤である原材料の減衰や,経営者死去に伴う廃業などで、唯一残っていた鎌倉市内の木地製造業者もいなくなり、今後は鎌倉市以外の地域で、限られた業者に材料の調達と木地加工製造を委託することになるようだ。これも時代の趨勢かもしれないが、組合も手の打ちようがないのだから情けないかぎりである。
鎌倉市も地場産業の鎌倉彫に対する思い入れも厚いとは言えず、市の助成金も雀の涙ほどで、このまま伝統産業の看板が廃れていくのは関係者としては忍びない。唯一の地場産業である鎌倉彫を守り、その活性化を促すのが鎌倉市の使命だと思うのだが。果たして市にその気概があるのかどうか疑問である。

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