線と面が一体の作品 作者不詳 |
図案を起こすとき、そのよりどころになるのは1本の線である。何本もの錯綜した線がイメージの器から湧き出ては消え、新たな線を生み出す。事物の観察は数多くのデッサン、スケッチによってイメージとして蓄積されていくものだが、目に見える「形」に表現する要素の最小の単位は、「点」である。ある点が別な所へ移動したその軌跡が「線」を作り出す。また、点を集結させることによって「面」が出来る。点・線・面は表現の基本要素であり、それを用いて、構図、配置を決めていくまでに葛藤があり、やがてひとつひとつ決断をしていかなければならない。点・線・面の中で、最小でかつ簡単に、「形」を認識することのできる表現が可能なのは「線」である。
事物の形態は線で縁取りされているわけではないが、面として実在する事物は点の集積でもあり線の集積でもある。面と面を分けるエッジは線で表現される。1つの点の移動した跡、つまり軌跡によって生じる線は形を表現するベースの要素と言える。日常で我々は少なからず線的思考を重ねている。世界が分子、粒子のような点であっても、それらが動きつつあるもの、動勢、軌跡、過程、それら自然の造形を線として表現することにも慣れている。
私が図案を起こすときは、下絵をラフに不定形な線で趣くままに描き、仕上げはトレーシングペーパーで、下絵の中の無数の線から一本ずつ選び修正していく手法をとっている。
線には、見る者に何らかの感覚や感情を生じさせる「線の力」や「線の表情」といった風合いがある。平面における絵画空間あるいはデザインにおけるラフスケッチなど、線によって様々な表現がなされる。
絵画においては輪郭線のはっきりしたものや,曖昧なものまでいろいろな絵があるが、輪郭線は、現実には存在しない非存在の線である。現実の物や人体が、線で囲まれているわけではないが、しかし、絵画における様々な輪郭線を見てみると、 形が確定したことによって意味が生じ、平面的な感じが表現される。また形に動きや量感がでて、形が背景に溶け込み広さや深さと結びつき、共有する輪郭線によって異なる空間が現れる。絵画において直線が少ないのは、直線は、どこまでも幾何学上の線で無機的なものであるからだろう。
左はスイス出身の彫刻家アルベルト・ジャコメッティ(1901~1966)の人物デッサンで重なり合う輪郭線が特徴的で、線の集合は量感を生み出し男の存在感を際立たせている。浮世絵や日本画は線を基調にした表現が多いが、線が生み出す空間意識や構図のとらえ方は、特に浮世絵で顕著にみられ、西欧の画家たちに多大な影響を与えたことは周知のとおりである。
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