東京都美術館で開催されている終了間近の二つの展覧会を観に行ってきた。一つはルーブル美術館展(地中海4千年ものがたり)と銘打って地中海を舞台に、西洋と東洋が出会って誕生していった至宝の数々273点が時系列で展示され、地中海を取り囲む国々の民の生活が忍ばれる小物類から、彫刻絵画に至るまで歴史物語が展開していく。
もう一つはかのトリックアートの巨匠福田繁雄の娘福田美蘭の個展である。父親譲りのDNAの影響か、きわどいパロディと時代に眼差しを向けた作家の意気込みを感じる展覧会だった。リニューアルされた東京都美術館に足を運ぶのは初めてである。
●ルーブル美術館展
地政学的に地中海は東西南北ヨーロッパ、アジア、中近東、アフリカの国々に取り囲まれた内海であり、そこには絶えず侵略や強奪による国家の存亡が繰り広げられ、4000年の歴史の中で異文化の吸収と破壊のなかで生まれてきた数々の世界遺産,あるいは地中海を通じて船による交易品など、全6章にわたり地図と解説付きで展示されていた。いずれも時の支配者のために作らせたものや、民衆の生活の中から生まれたものまで多岐にわたっている。歴史は勝者によって創られるという言葉があるが、国家盛衰の果てに残ったものが巨万の富と、それを運用する時の支配者が作らせた芸術や建造物、贅沢工芸品などである。今回は膨大なそれら遺産の一端を見せてもらった。以下はその概要と感想。
序 地中海世界(自然と文化の枠組み)ここでは教科書でお馴染みの黒像式,赤像式土器の繊細な筆さばきの描画が見られる。土器の多くは壷類で、オリーブ油を入れたり水を入れたりしていたらしい。その他銀製の打ち出し杯などデザインはいずれも精緻でストーリーに満ちている。
1章 地中海の始まり このコーナーは小物類が多く展示され、エジプトに関連したものが多く見受けられる。エジプト文字やギリシャ文字が刻まれたものや、神々(個々の守護神)を現した像など日本の八百万の神と似た感覚。
自害するクレオパトラ |
2章 統合された地中海(ギリシャ、カルタゴ、ローマ)ローマ帝国による地中海支配で破壊されたカルタゴなどの遺産やローマの石棺などの彫刻、クレオパトラの彫像などが印象に残った。
3章 中世の地中海(十字軍からレコンキスタへ)
キリスト教徒イスラム教の交差する異文化の交流を受けた工 芸品が見られる。
4章 地中海の近代(ルネサンスから啓蒙主義の時代へ)
地中海の覇者となったオスマントルコの影響を受けた絵画、装飾品などが見られる。
5章 地中海紀行(1750~1850年)
地中海世界への憧れから西欧の画家たちが書いた絵画が多く見られる。
※ 会期 9月23日(月)まで 東京都美術館
●福田美蘭展
案内状に誘われて初めて接する作家であるが、彼女の亡き父親はかの有名なトリックアートの福田繁雄である。父親譲りのDNAがそうさせるのか、きわどいパロディーを駆使した作品も多く見られる。画家の姿勢として眼差しを意識した時空を超えての構成になっていて、その制作意図がよく伝わている。
銭湯の背景画(富士山にマツキヨ、左にすかいらーく) |
1.日本への眼差し
第一室の最初の絵が銭湯の背景画が看板のように出てきたのでたまげた。黒田清輝の湖畔のパロディーや、北斎の富士山の反転画(逆さ富士)など意表をついた絵や、日常のオブジェなど、作品の裏で作者が鑑賞者の眼差しを弄んでいる感すらする。その裏には日本の絵画を再認識するといった意図が込められているのか?
ブッシュ大統領に話しかけるキリストと噴火後の富士 |
2.現実への眼差し
9.11以降に起こった一連のアメリカを象徴する絵の中で、特に9.11を自作自演した、聞く耳を持たない独裁者ブッシュに話しかけるキリストや、噴火後の富士山などが印象に残った。
ポーズの途中に休憩するモデルと床に置く絵 |
3.西洋への眼差し
セザンヌを模写し批評を加えた作品や、モナリザのモデルだった婦人がポーズの途中で休憩し横たわる絵、蝶盤付きの絵、床に置かれた絵などがある。筆者も歩いていいというからその上を歩いてみた。結構この作家遊んでいるが、鑑賞者も遊ばしてくれる。
夏ー震災後のアサリと秋ー悲母観音 |
4.今日を生きる眼差し
日本の現実3.11を描いた作品が目を引いた。ただ花やモノ、あるいは風景を描いているだけの画家の内向きの目とは違い、画家を取り巻く社会の状況に眼差しを向けた、まさにサルトルが言ったアンガージュマン(社会参加)の絵であろう。
※ 会期 9月29日(日)まで
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