2011年4月5日火曜日

アートな話「色について」

◆ 無彩色の世界
                     

                               雪舟の水墨画「秋景山水図 」

前回まで色の3原色(赤、青、黄色)にまつわる話の続きとして、今回は色相や彩度とは異なる明度という属性を持った黒の話である。

その黒の対極にあるのが白で、明度の階層によって白からグレーそして黒へと、目に感じる波長帯の光の大半を反射してしまう白から、ほとんどの光を吸収する黒へと無段階に変化するグレーゾーンが中間にある。

絵画上この黒を無限に駆使したものに水墨画がある。水墨画は、中国の唐 で始まり宋代に完成され、日本にはそれが伝えられて、鎌倉時代から室町時代にかけて発達し,雪舟が日本的な水墨画を完成したと言われている。

水墨画は、主に禅宗の僧によって描かれるのは墨一色の無彩色の世界が禅の境地に通じるからだと言われているが、しかし、墨はたんなる黒一色ではなく、そこにはさまざまな世界が表現されている。 ハツボク(破墨)」は淡墨で描いた上に、さらに濃墨で手を入れて立体感や全体の趣などを表す技法で、雪舟の「山水図」が「破墨山水」ともいわれている。

 
中国の「墨に五彩あり」という言葉は、墨がかもし出す豊かな表情を端的に表現している。墨は薄められると無限の階調を生み、そこに「にじみ」や「かすれ」の技巧によって、無限の表情が現れてくる。室町時代の人々が好んだのは、その墨の表情であり、単色の黒そのものではなかった。そして中国で水墨画を学んだ雪舟によって日本の水墨画が完成された。

水墨画を最も特徴づけているのは,いうまでもなく筆一本で表現する墨の色に尽きる。その表わす明暗濃淡が深く人の心に働きかけ,幽玄の世界に誘う。
滲み(にじみ)は,東洋絵画の主材料である水絵の具と,染み込みやすい紙(又は絹布)の特性から生まれてくる。滲みは元々,粗壁に生じた染みシミ(むらむら)を見た古人が,その偶然がもたらした装飾性や象徴性に感じ入り,芸術心を刺激されたといわれている。そこに,人の作為の及ばない人工を超えた幽玄・神秘を感じる発想がみられ、滲みと技術的に近い関係のある「暈しボカシ」の濃色が淡色へと変化させていく技法も,古く奈良や平安の仏画や大和絵にみられる。

滲みが普通,水で濡らした画面に濃い墨を加え,その墨が次第に淡くなって広がっていくのを言うのに,その逆にまず濃い墨で描いて,それが乾かないうちに水分をたらす。そうすると,水分は濃い墨の周囲を押し広げて,中央は淡く周囲が次第に濃くなっていくという複雑な効果が得られるのがにじみの逆のたらし込みの技法となる。


さて現代絵画において、黒を鮮やかに表現した作家に吉原治良がいる。前衛美術集団「具体美術協会」のリーダーで戦後抽象絵画を引っ張ってきた吉原は、抽象絵画の草創期に活躍した作家であるが、写真は1970年に発表された白い円のシリーズの1つである。2つの対角位置にある色の違い、すなわち白と黒の極限のコントラストが、その明快で微妙なバランスで表現されている。ある意味で色相間の補色のコントラストよりも、白と黒の様な無彩色のコントラストの方が私の眼には強烈に映る。




桃皿 風の落とし物 吉川創雲


◆ 漆黒 

もう一つ忘れてはならない黒がある。私が日常塗っている漆の黒である。いわゆる漆黒(しっこく)
と呼ばれるものである。漆の黒は精製の過程で、中塗用(黒中)、上塗り用(呂色漆)と大きく分けられるが。通常の塗料、絵の具などと違い顔料を混ぜて作るのではなく、漆の原液に微細な鉄粉を1%混入し、4~5日寝かせると鉄に反応した漆は黒くなっていく。その後ナヤシという工程を2時間程経て均一の黒漆が出来上がるわけだが、黒は色漆の下地となるベーシックな色でもあるが、上塗りに使用する呂色漆は、塗りあがってから研いで上質の漆で摺りを重ね、仕上がった黒は非常に奥行きのある深い黒色を発するまさに漆黒と呼ばれる所以である。
漆の黒はどんな塗料にも出せない味わいがあり、日本の伝統的な漆文化の基軸である。

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