2007年に日本に帰化して以来評論活動をしているお馴染みの石平氏が、今年書き下ろした著書「死に体」 中国の宿命 歴史が示す習政権の末路 を読んだ。題名からしてえぐいタイトルであるが、今の中国の国の成り立ちと、中国の本質が見て取れる一冊である。
本書によると、中国4000年の歴史と言われているが、その歴史は秦の始皇帝から始まる崩壊と再建の歴史に刻まれている。その始皇帝が戦国時代に並立した6カ国をことごとく滅ぼして中国初の統一王朝、秦を作ったのは紀元前221年のことである。
建国後自身が初めての皇帝と名付けて、国を統治したが、死後わずか15年足らずで崩壊の憂き目にあう。以後歴史は繰り返し、近代清に至るまで一番栄えた唐の時代も含め、崩壊と再建を十数回繰り返し、どの時代も皇帝独裁支配体制のもと、時の権力者はもとより、そこに群がる官僚達の私利私欲に走った構造は、現代の中国の一党独裁政権の腐敗ぶりに連綿とつながっていく。
その構造は、民衆(農民)から絞りとるだけ搾り取り、最後は搾取され収奪されたた農民達が立ち上がり、膨大な数の不満分子の力によって政権が崩壊していく過程が繰り返されていくのである。
通常国家というものは、時代が進むにつれ民主化が進み、政治経済が進展しそれに付随した文化も発展していき、近代国家が形成されていくものであるが、中国は国として体を成した秦からこの方約2200年たった現代でも、王朝が崩壊するたびに国の体制、文化などがリセットされ、前時代の遺物も文化も破壊されるラジカルな国である。それは歴史の進化継続と蓄積とは無縁の断絶の国でもある。
過去において、土地や生活基盤を失った農民がやがて多くの流民(難民)となって時の政権に反乱をおこし、その反乱が大規模に膨れ上がった時に、王朝は崩壊を繰り返す。
近代に入ると、中国初の民主主義革命(辛亥革命)によって中国最後の王朝清朝が崩壊した後、中国初の近代的共和国として中華民国が出来たが、その後、日中戦争のどさくさに旧ソ連の共産党から支援を受けた中国共産党が勢力の拡大を図り、時の政府に反乱をおこし毛沢東のもと中華人民共和国が誕生した。ここでも伝統の独裁専制政治は続き、権力闘争の末、文化大革命なる蛮行を行い自滅の道を歩むことになる。当然そこに展開するのは大規模な粛清と政敵の暗殺である。その犠牲者は1000万人以上とも言われている。
中国元 |
さて共産党政権存立の基盤となる国家経済が今危機に瀕している背景には、政府による過剰な公共事業や民間の異常な不動産投資によるバブル崩壊と、そのために土地を取り上げられた農民や、賃金上昇のため世界の工場としての地位が揺らいだ結果、景気後退で製造業に従事していた農民工たちの失業者が潜在化している。そして本書では、これら流民が2012年の時点で実に2億6千万人の数で表記されている。これら寄る辺ない民衆が、各地で年間20万件以上という暴動を起こしており、今後もその数は増加の一途たどることになる。また都市と農村、富裕層と貧困層の格差が拡大し都市部の潜在的な失業者も1000万人を超え共産党に対する不満は臨界点に達している。
その公安(治安維持費)のための予算があの膨張する軍事予算を上回っている事実は、いかに政権が過去の政権転覆の起爆剤としての民衆を恐れているかが解るというものだ、そしてその導火線となる知識人の弾圧も体制維持のため激しさを増す。また共産党は、国民の不満の目をそらすために対外的な拡張主義に傾き、東シナ海や南シナ海に象徴されるように、世界と摩擦を起こしている。そして国内では、欲の皮の突っ張った拝金主義の民衆が群がった高金利理財商品への出資からなる膨大なシャドーバンクの崩壊も始まっており、これらの不安定要素が増幅され中国の粉飾経済が失速した時、その世界経済に与える影響は多きい。
そのような情勢の中、特権階級の共産党幹部は相変わらず賄賂によって私腹を肥やし、取り締まる側も賄賂にまみれ、腐臭を放ち腐敗が進む死に体になり、収拾がつかない状態が今の中国であり、政権末期を予感している共産党幹部は、我先に海外に莫大な資産を移し、安住の地を求めその視線は、はるか遠くをさまよっている。
政敵をターゲットにした汚職取り締まりも拡大する中、天津で起きた巨大な爆発事件は習近平暗殺を企てた一件と取り沙汰されていることも明らかになっている。人心は離れ、国家への不満が臨界点に達した今、崩壊へのカウントダウンはすでに始まっている!
著者は現在の習近平体制を赤い王朝と呼んでいるがこの王朝も崩壊する宿命を負っており、それはそう遠くない時期にやってくると結論付けている。運命は変えられるが宿命は変えられないものである。
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