2011年9月16日金曜日

日本経済への警鐘


属国として米国債を買い支え、ドル防衛役を担い続けてきた日本の「マネー敗戦」構造を明らかにした吉川元忠元神奈川大学教授の遺作 国富消尽 (対米隷従のはてに)を読んでみた。「国富防衛」「対米自尊」の思想を説き続け,日本人に警鐘を鳴らした孤高の碩学・吉川元忠氏の遺作。


本編は7章からなっている。

1.着々と進む日本企業買収の環境整備
日本企業を傘下に支配し、利益を本国に吸い上げることしか眼中にない米国によるM&Aの危うさ。

2.外資によるM&Aの新時代
ヘッジファンド(乗っ取り屋)も格付会社も野放し状態。
金融面で米国が必ず勝てる制度を設計し、グローバルスタンダードと称して世界に押し付け、日本における市場開放と規制緩和や構造改革を迫る。

3.郵政民営化の真実
狙われる日本の個人金融資産
民営化ビジネスはウオール街の金のなる木、
全て外資に買収された破綻生保会社

4.深く静かに進む米国の日本改造
司法、医療、教育まで米国化されるのか

5.アメリカの対日圧力を振り返る
それは日米構造協議から始まった。
中曽根政権の対米協調制作がバブルの原因
富を創造出来なくなった米国の疫病神投資ファンド(ハゲタカファンド)

6.21世紀の日米金融バトル
日本はマネー敗戦の構造から抜け出せるのか、為替差損に構わずドルを支え続ける日本
日本の財政赤字を増やして円売りドル買いによる米国の赤字を埋める異常な構造
各国のドル離れが進行し、金融市場にドル暴落並びに米国債のデフォルトが囁かれているなかで日本だけがババを引かされる可能性が高い。

7.日本のポスト.グローバリズム戦略
日米基軸、対米協調以外の選択肢はないのか
対米依存度を低減すべき

最後に「集団主義的価値観が日本の強みとしてあったものが、精神構造までアメリカナイズ され、集団への一体感と忠誠心の喪失と帰属意識の希薄化が進む現状から立ち直るには、 米国的価値観への迎合から決別し、我々の父祖たちが築き上げてきた歴史と伝統の価値を再発見し、日本人が自信と誇りを取り戻す以外にない。」と締めくくっている。

米国国債
わが国の米国債保有状況

日米関係評論家・副島隆彦氏の試算では日本の対米ドル債権累積は官民にて総額700兆円から1000兆円規模(米国債およびドル建て金融商品含む)に達するようであるが、正確な実態は公表されないので不明である。
日本と並び、中国も大量の外貨準備金(3兆ドル規模)を保有しているが、対米輸出で得たこの豊富な米ドルで、世界中の油田利権や鉱山利権獲得に多額投資している。すなわち、第二次世界大戦戦勝国・中国は、手持ち米ドルを有効に活用している。
ところが、第二次世界大戦敗戦国・日本は今なお、米国の属国であり、日米間の暗黙の取り決めによって、手持ちドルを米国政府の了解なしに勝手に使えないよう縛られている。
その証拠に、日本のもつ米ドル資産(外貨準備金)は、財務省の公表している分だけで、1兆ドル強(1ドル80円で80兆円)もあるが、これほどのドル安でもこの米ドルが売られていない。それどころか、逆にドル買いオペをやって、米ドル相場の暴落を阻止しているほどである。

したがって、日本の場合、実質的に、国富が一方的に日本から米国に垂れ流され続けるわけである。皮肉なことに、日本の対米ドル債権が膨らめば膨らむほど、日本は米ドル相場を維持するために、米ドルの買い支えを永遠に続けざるを得ないわけだ。一方、米国は膨大な対日負債を返済しないよう、日本を永久に属国化し続ける。

円高が止まらない

今、足もとで急速に進む円高が、わが国企業の収益状況に大きな影響を与えている。
8月下旬に行なわれた経済産業省の調査結果では、現在の1ドル=76円近辺の円高水準によって、大手製造業の15%が前年対比20%以上の減益になり、それ以外の61%の企業が20%未満の減益になるという。それに対して、多くの企業はコスト削減で対応するとの方針を立てているものの、コストの切り詰めには限界があり、今後、海外からの部品調達や、海外の生産拠点拡大を行なわざるを得ない構図が浮き彫りになる。

産業の空洞化・雇用機会の海外流出の懸念を抱えているのは、わが国ばかりではない。ある意味では、人件費が相対的に高い主要先進国が共通に持つ課題と言えるだろう。
2009年度の内閣府の統計ではGDPに占める第1次産業(農業、漁業など)のシェアは1.4%で横ばい。第2次産業は、建設業のシェアが上昇したものの、製造業のシェアが低下したことから、23.8%となり5年連続の低下。第3次産業は、、卸売・小売業などのシェアが低下したものの、サービス業などのシェアが上昇したことから、74.9%となり5年連続の上昇。

この製造業に関わる問題点をあげてみると、以下の理由から工場の海外移転が進んでいる。

1. 人件費は世界一高い。コストダウンも限界を超えつつある
2. 法人税率も40%で世界一
3. 改正労働者派遣法などで人材・雇用の柔軟性が失われた
4. 為替は史上最高レベルの円高
5. 土地の使用や工場の建設などの規制がきつい
6. 国内市場は衰退の一途、人口構成から見ても回復の見込みがない
7. 電力供給に赤信号、使用制限令が発動されている

中規模以上の企業は海外展開が今一番の課題になっている。特に製造業は、その傾向が顕著である。現在、日本の製造業の生産は約30%が海外に進出している。10年前には20%程度だったものが、ここ10年で海外進出がどんどん進んでいることが分かる。このままでは今後、ますます産業の空洞化が広がっていくだろう。
技術大国として世界を引っ張って行かなければならない我が国、またその使命を担った製造業にとって上述したことは由々しき問題であると同時に、日本経済の牽引力でもある工業力を弱めてはならない。

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